小説 川崎サイト

 

雑木林の中の雑念


 静かに時だけが過ぎてゆく。全てが緩やかで、まるで止まっているよう。
 そういう瞬間もあるだろうが、日常の暮らし、一日の生活などを見ていると、目まぐるしく変わっている。動いているためだ。用事もあるため。
 じっと突っ立っておれば、時も静かに流れようが。
 日々、穏やかな流れの中。これも本人の動きが少ないのだろう。
 草加はそんなことを思いながら、雑木林の中で、突っ立っている。だが、じっと立ったままの姿勢も長くは続かない。立っているのだが両足にかけていた体重を片足に傾けたりする。決して片足だけで立っているわけではないが、つまり「きをつけけ。やすめ」の姿勢。そういうのを中学校の時、教えられたのだろう。これは兵隊さんの立ち振る舞いかもしれない。
 そして、同じところを見ているが、見飽きてくるし、風で一葉が揺れると、そこを見てしまう。
 それで、何を見るのでもなく、全体を見たり、何処にもピントが合わないように目玉を調節したりする。
 これは、ぼんやりとしているとき、たまにある。ああ、その状態になっているなと気付き、すっとピントを合わせる。
 二本足だと立ち止まっているより、しゃがんでいる方が安定する。腰を落とした方が。
 また、立ち続けるよりも、歩いている方が楽。これが二本足の使い方だろうか。
 草加は一寸した散歩、息抜き。特に考え事をするために出たのではない。静かな時を過ごそうと考えた。
 それで雑木林の中にいるのだが、どうも居心地が良くない。これが夏場なら蚊に刺されるだろ。それに葉を落とした木が多く、枝だけになっている。
 当然年中、葉を付けている木もあるが、古い葉は順番に落ちていくのだろう。その葉が下に落ちている。
 下草や灌木も多く、小道から逸れると、地肌が分からないほど生い茂っている。こんなところに半ズボンでは入れない。
 この雑木林の世界。ここはゆるとした変化しかないかもしれない。木が急に動き出したりしない。幹のコブが顔に変わり、枝が腕に変わる。子供の頃、外国のアニメで見た記憶だろう。そんなことが実際に起これば大騒ぎになるどころか、人類は世界観を変えなければならない。
 しかし、木が歩き出すのはいいが、足は何処にある。これは根だろう。根ごと動くのだ。まさに根こそぎ。
 だが、地面に張り付くための根なので、歩行には向いていない。それに幅を取る。
 静かに時だけが流れる。そういうのを草加は雑木林の中で期待していたのだが、雑念が流れまくった。
 
   了
 
 

 


2022年1月15日

 

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