意味
川崎ゆきお
「意味が分からない」
「それは、批判ですか？」
「どうしてそうなるのか分からない」
「続けてください」
「彼がどういうつもりなのか、意味が…」
「彼にはその種の行為が多いのですか？」
「たまにあります」
「彼の立場で考えれば意味が理解できるのでは」
「いつも彼の立場で考えています」
「はい」
「どうして？」
「何がですか？」
「はいって」
「口癖です。了解しました、次を話してくださいという意味です」
「そのはい、ですか」
「はい」
「今のは」
「その通りですという意味です」
「彼が理解できません」
「はい」
「話を続けていいの？ それとも分かったということ」
「今のは、単なる相槌です」
「そうなの」
「続けてください」
「どういう意味で、あんなことするのか、理解できません」
「その意味、本当は分かっていませんか？」
「分かりません」
「それはあなたに都合の悪いことではないでしょうか」
「はい、その通りです」
「じゃ、意味が分かっているはずですね」
「いいえ」
「意味が分かっているから、不愉快なのでしょ」
「じゃ、解説してください」
「私はあなたの彼氏ではないので、本意は分かりません」
「では、先生は彼の行為が理解できますか。意味が分かりますか」
「はい、単純な話です。彼がそれをやりたいからやっているだけですよ。別にあなたは困らないでしょ。あなたとは関係のない世界なのです」
「どうして、それがやりたいのか、理解できないのです」
「彼は口を滑らせたのですよ。言わなくてもよいことを。つい、うっかりと」
「どうすればいいのですか？」
「特に何かをする必要はないでしょう」
「あんな悪癖を隠していたなんて」
「ほら、意味が分かっているじゃありませんか」
「だから、そんなことをする意味が分からないのよ」
「癖に意味は求めないほうがよろしいですよ」
「すみません。愚痴りたかっただけでした」
「はい、お大事に」
了
2007年10月12日