小説 川崎サイト

 

結界外へ


 時間を持て余し、退屈紛れに、いつもとは違うようなことをし始めるのではなく、高浜は起きるのが遅すぎたので、いつものスケージュールには乗りにくくなった。時間が余っているのではなく、足りない。
 それでいつもとは違うようなことをし始めた。要するにその日の予定は一切キャンセル、無視して、全く違うことに走ることになる。
 これなら、遅いとか早いとかが通じない。一日のスケジュールがまったく異なっているので、比べられない。だから、遅起きがそれで消える。
 いつもとは違うこと、これは旅行でもいい。しかし、一泊するほどの時間はない。明日は、また普通の日に戻すためだ。目覚めれば旅館の蒲団ではなく。
 一泊旅行は無理だが、日帰りなら行ける。だが、高浜はいつか暇が出来れば、行きたいと思っているような観光地はない。それ以外の場所でもいいのだが、定番コースを好む。しっかりと予定を立て、しっかりとしたコースを遊覧する。
 誰もが普通にやっているような能のない旅行だ。最近の旅には人生の重みはかからない。時間の長いイベントに行くようなもの。ただ、見ているだけでいいし、少しは歩くが、それほどの距離ではない。
 観光地なので、交通の便もいいだろう。また、順路もあるはずなので、それに従っていけば、迷うこともない。そのため、冒険も何もない。
 それがつまらないというわけではないが、最近旅行へ行く気がなくなっている。
 真新しい白紙のノートを与えられたような日。今日がそうだ。そういう日にしたい。何もしなければ白紙のまま。何かはしているだろうが、書き込むほどのことではない。
 余計なこと、普段とは違うことをして、とんでもないことになる可能性もある。それが邪魔臭い。
 しかし、今朝は寝坊しすぎたので、いつも通りのことは避けたい。忙しいだろう。時間が短いので。
 また、ある時間にならないと、できないこともある。それも今日は含まれており、この分では間に合わない。だから、そういうことを全てキャンセルできる日を設けようとした。
 高浜はそれで朝の日課から、既にキャンセルし、違うことをやり始めた。殆ど使うことがないリュックを引っ張り出し、そこに冒険用のアイテムを入れた。
 軽いハイキング用品。これも、長い間、行っていないので、山行きの道具類などはもう、なくなっている。
 水筒もない。これはペットボトルでいいだろう。折りたたみ傘の小さいタイプがあったのだが、それもないので、少し長い目の傘。入れにくいし、場所を取る。
 折りたたみ式のレインコートでもいい。こちらは畳んだまま仕舞ってある。使っていないのだ。それを入れる。
 それで準備が出来たが、ただの町歩きか里山程度なので、困ったことがあればコンビニでも寄れば調達できるだろう。だから合羽も傘も本当はいらないのだ。当然水筒も弁当も。
 軽登山用の靴があるが、街中で履くと、それはドタ靴で、大層すぎる。だから靴は普段から履いているビジネスシューズ系とカジュアル系の間ぐらいのタイプでいい。履き慣れたものの方が歩きにはいいだろう。
 それで、準備が出来たので、外に出た。弁当の心配もない。山中へ行くのではないので、外食すればいい。
 しかし、高浜は困った。出て、すぐだ。いきなりだ。
 何処へ行ったらいいのか、分からない。
 
   了



2022年1月29日

 

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