小説 川崎サイト

 

煙い

川崎ゆきお



「仕事のほとんどは人間関係で決まる」
「そうでしょうか?」
「だから、ほとんどで、すべてではない」
「安心しました」
「君は人間関係は別条ないかね」
「はい、特に変わったことはありません」
「じゃ、同じ関係を維持しているんだ」
「平和ですよ」
「じゃ、困ることはないわけだ」
「支障はありません」
「君になくても周囲にある」
「僕の周囲ですか」
「そうだ」
「どの範囲でしょう」
「だから、仕事で君と接している人々だ」
「人々って、社の人のことでしょ」
「そうだ」
「困っているのですか?」
「そういう噂もある」
「どうして、そんな噂が?」
「火のないところに煙は立たない」
「煙が噂なのですね」
「煙の噂を語っておるのではない」
「どんな煙ですか」
「煙たいんだ」
「じゃ、やはり煙なんだ」
「煙たい存在だということだよ」
「僕は煙ですか」
「らしい」
「煙たがられるようなことはやっていないつもりですが。それに、煙たい存在って、何ですか?」
「息苦しいんだ」
「そんな態度はとった覚えはありませんが」
「存在が煙いんだ」
「課長、それは人間関係の話ではないと思いますが」
「そうか」
「わざわざそんな話をするのは、何か理由があるのでしょ」
「いや、世間話だ」
「注意すべきことがあるのなら、おっしゃってください」
「職場は人間関係が大事だ」
「そうですねえ」
「それだけだ」
「そんな世間話をわざわざ…」
「だから、世間話として聞いてくれればよい」
「何か警告したいのじゃありませんか?」
「ない」
「人間関係と煙たい存在とはどう関係するのですか?」
「少しは関連する」
「世間話で、僕の噂が登場しましたねえ。これって世間話じゃないでしょ」
「もういい」
「何をおっしゃりたいのでしょうか?」
「分かった」
「何が分かったのですか?」
「…………」
 
   了


2007年10月15日

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