小説 川崎サイト

 

凡作家


 白峰はよくいる職人。これは個人技で、個人芸。一人でやる。
 そして凡作が多く、何とか「並み」のレベル。「普通」「まずまず」で、特に優れたところはない。
 キャリアはあり、長い。熟練の域に達しているはずだが、仕事が早いわけではない。
 ある目利きがおり、作品から、人柄や、その奥に潜むもの、あるいは傾向とか、かなり言い当てることが出来る。だから目利き。当然作品に関しての、その出来不出来なども鋭く指摘する。
 これは手を抜いたとか、これは名作だとか。
 そん目利き、白峰に注目した。一寸怪しいのだ。ベテランなので、もっと凄いものが作れるはず。何か秘密でもあるのかと、疑問に思った。
 それで、何かの小冊子のインタビュー記事を持っているので、それを機会に、探りを入れることにした。
 本当に白峰が作っているのか、と言う最初の疑問は氷解した。弟子がいない。手伝いもいない。
 作業場で白峰が淡々と仕事をしている。手もゆっくりで、楽々こなしているようだ。ここは作品にも現れている。それほど早くできないのは、あの手つきだろう。手が遅いのだ。
 白峰の作品はいつも似たようなもの。同じようなものばかりを繰り返し作っている。
 目利きはそれにも疑問を持っているのだ。何らかの創意工夫とか、自己流の何かを加えるはず。それでこそキャリアにふさわしい。またそういうことをしても良いレベルの人。だが、それをしない。
 白峰には名作、傑作がない。白峰と同年配で、名人と呼ばれている人が複数いる。いずれも目立った存在。
 だが、白峰にはそういう作品が一つもない。
 目利きはその白峰の凡作を眺めているとき、あと一押しすれば名作になる可能性があるのではないかと感じた。これは直感だ。
 そして、インタビューと称して、いろいろなことを聞いてみた。いずれも目利きの個人的な疑問の問いかけ。
 白峰の返答はありふれていて、何処でも聞くようなコメント。作品もそうだが、受け答えもありふれたもの。
 何かもっと深い言葉を期待していたので、さらにそこに針を突っ込んだのだが、奥にまでは届かないのか、意外な発言が返って来ない。全て受け流されているのだ。
 もっと嘘でもいいので、他の人なら、奥深いことをチラッと言うものだ。また理想なども混ぜる。
 これは白峰の人柄かもしれない。
 結局、何も引き出せず。疑問に思ったことも掴めなかった。
 目利きではなく、白峰の仲間で既に引退した人が何処かでこっそりと白峰について語っている。
 あの人は名作傑作を作らない人。作れないのではなく、作ってしまうと、終わるとか。
 
   了

 



2022年2月17日

 

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