小説 川崎サイト

 

私ごと


 寒い日だった。米を買いに行った。
 米谷は私事をしていると感じた。私がしていることなら何でもかんでも私事なのだが、この米買いは米谷だけの用事。自分だけのこと。
 だが、私事であっても、そこへ行くまでに公道を通る。見知らぬ人達ともすれ違うだろう。下手をすると米谷だけで済む問題ではなくなるかもしれない。
 その米。銘柄は何でもいいが、販売者や生産者に関係するかもしれない。つまり一つ米谷が米を買うことで。
 私事だが世の中と繋がっている。まあ、人は一人では生きていけないのは当然の話で、言うまでもない。何処かで関係する。
 私事で米を買いに行く。
 その米で何をするのか。当然、食べる。生では食べられない。生米を仕方なく食べるという状況もあるだろうが、水があれば少しは浸すだろう。
 では米を買いに行くのは公的なことだろうか。そんな社会的なことではないので、社会とは関わるが、社会的な何かを成すというわけではない。
 しかし、寒い。早く米を買い、早く暖かい部屋に戻りたい。この寒いのは私事だろうか。私ごととして暑い寒いは言うだろうが。
 米谷は一人で思うだけのことが多い。単に感じているだけ。人と挨拶代わりに言うこともあるが、当たり障りがないため。天気のせいで、誰かのせいではない。反対意見もないだろう。ただ、感じ方に対しての違いは出るが。
 米谷はいつも小袋を買う。一番小さな袋。その次に大きいタイプは重さがある。一番大きな袋は持つだけでズシリとくる。持てるが歩けない。
 これは配達してもらわないと、厳しいだろう。それこそ買い物に行き、米だけしか買えない。
 実際に買うのは小袋と中袋。袋が大きいほど割安になる。
 小袋しか買わない米谷は、米買いが頻繁。しかし、軽いので持ち帰りやすい。取り回しもいい。
 米を買う。これは単純に言えば米谷だけのため。買った米の使い道は、米谷がご飯として食べることだけに限られている。これは買った後の話。
 米を買いに行く。
 単純なことだが、薬局へ行く用事もある。これはついでに寄ればいいのだが、米を持ったまま薬局へ入りたくない。自転車の荷台に残したままでもいい。誰も盗らないだろう。
 だが米を売っている場所と、薬局は離れすぎている。しかし、ドラッグストアなので、米も売っている。ここの米の方が安い。だが、好みの銘柄があり、それに慣れている。水加減なども。
 それが薬局にあれば話は早いのだが、おそらくない。確かめたわけではないが、外れると、余計に面倒になる。
 こういうのは私事だろう。
 全てが米谷の頭の中の世界での展開とまでは言わないが、その私と何とか付き合っている。
 誰が。
 
   了

 


 


2022年2月21日

 

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