小説 川崎サイト

 

ある戦場


「誰か槍組に入るものはいないか」
 彼らはそっぽを向く。
「弓組ばかりではないか」
 槍組、この部隊の槍は長くはない。それが不満なのだ。槍は槍でも長槍。その分、重いが、細い。かなりしなり、折れそうなほど。それぐらいがいいと、彼らは考えていた。
「弓はもうない。残りは槍組に行ってもらう」
 彼らは渋々槍組に入った。
 弓組と違い、頑丈な胴巻きが支給された。分厚い。敵と槍の距離分接近する。陣笠も与えれた。これも頑丈で鉄製で重い。弓組は木製。
 槍合わせになったとき、突くよりも上から叩かれる。まるでチリハライのように。
 彼らは一寸した訓練というか、構え方、陣形を教えてもらう。隊の組み方、並び方も。数人で一列になり、それが最小規模。単独では戦わない。一体になる。この単位で行動する。
 当然他の隊とも一緒で。これは敵が横にもいるとき、前と横に備える。後方にも敵がいる場合は、そちらにも構える。前後左右だ。
 そういう隊列の組み方を少しだけ教えてもらう。
 彼らは農民。出来るだけ怪我をしたくない。だから必要以上に臆病。そのため、まともに戦おうとはしない。槍組みの侍達はそれをよく知っている。
 立派な鎧兜の槍の武将は馬上。しかし、後方。騎馬隊ではなく、ただの槍足軽を指揮するだけ。馬上からだと見晴らしがいい程度。馬はただの台のようなもの。
 そして合戦。先ずは弓合わせ。これは当たらないが、飛んでくる。小者達が拾い矢をする。彼らも農民だが、戦わない。荷駄を運んだりするのが目的。
 次ぎに槍合わせ。当然長い方が勝つ。このとき、投石もする。
 槍隊は槍を突いたり叩いたりするが、それ以上踏み込まない。押し気味なら、徐々に前へ出る。弓隊も出る。
 敵も同じことをしてくる。だから弓が勝負を分ける。敵も味方も弓が飛んでくる距離には入りたがらない。
 弓隊に混ざって石弓隊や、投げるだけの投石隊も加わっている。殆どが石投げだ。
 それで敵が後退気味で、引きかけたとき、槍隊はどんどん押していき、敵の構えが崩れたとき、騎馬の槍武者が突っ込む。有利になったときにしか突進しない。馬が来ても、逃げ腰の敵は相手にしない。だから騎馬武者は無事。
 出来れば指揮している敵の武者を討ち取りたいのだが、周囲に敵がまだ多いと、そんな無謀なことはしない。
 また突っ込んだ騎馬武者。先頭ではない。その前に家来が露払いのようにいる。これが騎馬武者を守っている。
 今回は敵を後退させたので、これで緒戦は勝ったようなもの。
 敵陣の一角がそれで崩れたのだが、敵は立て直してくるだろう。少し押しただけなので。
 しかし、この部隊は優勢だったが、左右の部隊が苦戦で、押されている。そのため、優勢だった部隊は飛び出した状態になったので、危ないと思い。深追いをやめ、後退した。
 要するに押しくら饅頭をやっているようなもの。押された方が負け。しかし、全軍で押し切れないどころか、後退したため、殆ど敗走状態。少し戻ったところで、兵を整えた。
 最初、突っ込み、敵を後退させたのだが、残念な結果になった。
 陣を構え直すと、敵はもう深い追いしてこなかった。
 要するに小競り合いをやっただけなので、勝敗はついていない。
 そんな戦いの方が多かったのではないだろうか。
  
   了
 

 


2022年2月22日

 

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