小説 川崎サイト

 

暇人

川崎ゆきお



 以前は面白かったことでも、今はそれほど興味がいかない事柄がある。あの時代と背景が違っているためだろうか。
「基本は同じだと思うけど」
「基本は面白くないからね」
「いや、基本が面白かった時期もあるよ」
「米の飯がおいしいのと同じだよ」
「あまりおいしいとは思ったことないけど」
「そうじゃなく、米の飯を食べるのが基本なんだ。まあ、本業というべきかな」
「メインということか」
「そう、基本の幹だ」
「パンも食べるけど、ご飯も食べるなあ」
「そのご飯が基本なんだ。つまり食事することをご飯を食べると言うんだよ」
「パンもご飯なのか?」
「パンは米ではないが、ご飯だ。朝ご飯食べてきた? と聞かれた時、食事をとったかどうかを聞いているんだ。パンでもいい」
「メシ食ったかも同じか」
「御飯粒を食べたかと聞いてるんじゃないんだ」
「じゃ、基本はいつまでも残るんだな」
「手を替え品替え、残る」
「すると、以前は面白かったものが、今そうでもないのは、ものが変わったからなのかなあ」
「同じ面白さがあればそれでいいんだよ」
「しかし、昔のカメラを触っていると面白いんだ。今のデジカメでにはない感触が」
「写真は写ればいいんだろ。進化して、今の形になったんだ」
「巻き上げレバーとか、フィルム装填とか、巻き戻しノブとか、そういうの触るのが楽しくて買ったんだよ」
「まだ、使ってるの?」
「今はデジカメだ」
「デジカメのほうが快適だからじゃない?」
「そうだけど、初めて買ったカメラを触っていたころの面白さがもうないんだ」
「ご飯がパンになったんだよ」
「そのパンもやはりご飯なのか」
「そうだよ。カメラはカメラだ。食事は食事だ」
「でも何かが欠け落ちているんだ」
「それをまた楽しみたいわけ?」
「フィルム代かかるし、面倒だから戻る気はないけど」
「それは懐かしがっているだけじゃない」
「そうかなあ、年々楽しめるものが減っているんだ」
「それは君が妙なところに楽しみを見いだしているからじゃない?」
「普通だ。そっちはどうなの? そんな思いはない?」
「覚えることが多くて、それどころじゃないよ」
「そうか、暇人の悩みか…」
 
   了


2007年10月16日

小説 川崎サイト