小説 川崎サイト

 

就活相談員


「面接があるのに、途中で気が変わり、やめたとか。入社して、合わないと思い、すぐにやめたとか。そういう話ではなく、元気で頑張って会社へ行っていますという話をお願いします」
「会社でないと駄目ですか」
「仕事なら、会社員でなくてもかまいませんよ。でも殆どは会社でしょ。保険とか、そのあたりを考えれば、普通の会社で、普通に働いていますといえば、社会人の判子を押して貰えます」
「しかし、元気で頑張って、ですか」
「そうです。勢いのある話がいいのです」
「元気を出すのはしんどいですよ。元気でなくても、何とかなるような話じゃ駄目ですか」
「それはちょっと」
「頑張るのもしんどいですよ。ずっと頑張り続ければ、えらいです」
「たまには休んでもいいのです。そのため、休日があるでしょ。有給のね」
「たまにですか。たまにではなく長い目に休みたいものです」
「方向が違うようですが」
「え、何の」
「だから、あなたはサボろうと、怠けようとしている話が多いのです」
「これは自然にそうなるので、自然派です」
「だから、そこは頑張って耐えるのです」
「頑張る。耐える。そこんところ、何とかなりませんか。そんなことをする必要があればいいのですが」
「勤めるとはそんなものです。だから勤め人は偉いのです。耐性があります。途中で尻を割らない」
「やめると収入がなくなるからでしょ」
「社会的地位もね」
「はあ」
「カードも作れません」
「いや、色々とありますよ。そんなきつい審査などなしで」
「だからカードのブランドが違うのです。いいカードじゃない」
「やる気はあります」
「何の」
「だから、会社へ行く気はあります」
「それで普通です」
「何かうまい方法はありませんかねえ」
「働からず者、食うべからず」
「その基準、きついですねえ」
「少しね」
「あなたの助手なんて、どうですか。募集していませんか」
「していません。私一人でもギリギリなんですから」
「あなたも働いているわけですね」
「そうです。相談員です」
「それ、やりたいです」
「勝手に始めればいいでしょ」
「しかし、ここ、無料でしたよね」
「そうです。だから客から金銭は取れません」
「じゃ、無理だなあ。自分で始めても」
「それに、働くことを進めないといけません」
「当然ですよ」
「でも、あなたは、それができないまま」
「分かりました。甘い仕事など、ないのですね。じゃ、何でもいいから、ましな企業、紹介して下さい」
「どうせ、すぐにやめるのでしょ。それ以前に採用されないかもしれませんねえ」
「何でもよろしいから、就職活動をやっている形跡があれば、それで充分なのです。だから、落ちそうなところ、紹介して下さい」
「はい、分かりました。三番窓口に行って下さい」
「あ、はい」
 
   了



2022年3月11日

 

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