小説 川崎サイト

 

動く妖怪絵


「動く妖怪絵絵ですか、博士」
「ああ、見てきたよ。ただの絵だ」
「いやいや、動くんでしょ」
「廃村の廃社に妖怪がうじゃううじゃ沸くと聞いて、一緒に調べたのだがね」
「誰なんです」
「最後まで村にいた年寄りの知り合いの息子さんで高田氏」
「高田氏」
「この村では高田姓が多くいたそうだよ。その息子さんも、もういい年だが、高田姓。遠い親戚だろうねえ」
「そういう話は、適当でいいのですが、絵が動くというのは確かですか」
「ああ、動いたように見えたよ。じっと凝視していると、像が流れたりする。まるで移動したかのようにな。しかし、目玉が動いたんだ。それに似たようなものだが、じっと見ていると、チカチカと荒っぽいアニメのように動き出し、また形も変わったりする」
「じゃ、抜け出すことはないのですね。絵の妖怪が」
「ぐっとこちらにやってくるように見えるかもしれん。何せ場所が場所。神棚などがあるような奥の板塀なのでな。しかも絵と板の?や木目などが混ざり合い、妙な具合なんじゃ。また廃村で誰もおらん。そんな場所の廃社の中は薄気味悪くて当然じゃろ」
「博士も見られたのですか」
「ああ、動いたよ」
「それは非常に大事なことで、これは大発見かもしれませんよ」
「錯覚じゃ」
「しかし、錯覚に見せかけて、その絵の妖怪が本当に動いたりしているかもしれませんよ」
「何のために」
「ああ」
「社殿の外に出るわけじゃなし、そんな用事もないだろう」
「そうですねえ。でも調べる必要があるかもしれません」
「じゃ、君が行くか」
「遠いのでしたねえ」
「最寄り駅から車に乗せてもらったのだが、かなりの距離じゃ」
「車は何とかします。レンタルで」
「しかし、一日仕事になるぞ」
「そうですねえ」
「それに絵が動いたと言えるかどうかは分からん」
「動画で撮ります。ところで、そういった絵が動く話は前例としてありますか」
「山水画の絵が動くらしいぞ」
「ああ、有名ですねえ」
「小舟が湖か何処かに浮かんでおる。遠くだ。しかし、徐々に近付いて来る。船頭が乗っており、櫓を漕いでいる」
「それは凄い話ですよ」
「有名な話じゃが、これは催眠術のようなものにかかったんじゃろ。幻術じゃな。だから、そのものが具体的に動いたわけじゃない。だから、廃社の妖怪の絵も、具体的には静止したままのはず。だから静止画なんじゃ」
「それが動くから凄いのですよ。動いているだけで」
「うーむ」
「表情を変えたりするんじゃないのですか。博士は見たのでしょ」
「ああ、怖い鬼のような顔面の妖怪が笑い出したかな」
「凄いの、見たじゃないですか」
「だから、錯覚なのじゃ」
「調べましょう」
 妖怪博士は高田氏に連絡を取ると、あの神社。ぺしゃんこになったとか。
 妖怪の絵は、もし掘り起こすとすれば、重機が必要とか。
 これで、流石に編集者も、面倒になり、調査は中止。
「今頃、下敷きになった妖怪達が、這い出してきますよ」
「人が見ておら静止画は動かんのじゃ」
 折角の大ネタにぶつかったのに、妖怪博士のノリが悪く、簡単に済ませてしまった。
 
   了


2022年3月14日

 

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