小説 川崎サイト

 

夜中の目覚め


 夜中、ふと目を覚ますと、どこか遠いところに行っていたような気がする。悪いところではない。
 秋山は、また目を閉じる。先ほど行ったところへまた行きたい。しかし、そんなことは無理。
 それよりも、目が覚めたとき、これまでの世界とは様子が違っているように思われた。夜中、目を覚ますことはよくあるが、ここは何処だろうと思うことは希。
 目が覚めるまで、夢を見ていたようにも思うが、まったく覚えていない。それでも起きたときはその世界のもので、別世界の続きのように感じられた。
 だから、夢の中味ではない。夢など見ていなかったのかもしれない。今までと一寸違う世界。包み込んでいるものが違うし、秋山そのものも秋山だが別人のような秋山。秋山のある一面かもしれないが、妙に清々しく、透明感がある。すっとしている。
 目が覚めたとき、部屋の中は同じ。しかし、目覚めたのは秋山だが秋山でない。何故なら、そんな目覚め方など普段はしないためだ。
 夢で魘されて起きたときも秋山自体は壊れていない。秋山として怖がっている。
 ところがその夜中の目覚めの秋山は一寸違っている。だが、その違和感は悪いものではない。
 これは何だろう。別の秋山が目覚めたわけではない。
 そして、その秋山を引き継ぎながら、また寝たのだが、いつもの時間に起きると、もうその感じはない。少し残っているような気がするが、僅か。
 当然、夜中に目が覚め、妙な秋山を感じたときのことは覚えている。
 あの秋山に合いたいとは思わないのは、秋山は一人だけで、合いたいと思うもう一人の秋山ではない。しかし、そういう秋山になってもいいと思っているが、これはかなりレベルが高そうで、崇高さえ感じる。
 秋山にそんな崇高性など、殆どないだろう。聖者にでもならない限り。また、そんなものになりたいとも思っていない。
 秋山は不思議なものを見た。目で見たわけではないし、夢の中の秋山を見たわけでもない。ただ、目覚めたときの雰囲気が違っていたのだ。外観ではなく、内部だろうか。
 これは気持ちとかの精神的な切り替えが違っていたのかもしれない。間違って、あまり記憶にない秋山で目覚めたとか。
 その日は、別に何もなかった。いつもの秋山で目覚め、いつもの秋山らしい一日を終えた。
 しかし、あの秋山は何だったのだろうかと、少し気になった。
 
   了

 
 


2022年3月18日

 

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