小説 川崎サイト

 

妖怪像


 箕田は変わったものが好きなのだが、それは変わっているからだ。そのものが変わっておれば、それで充分。
 その中身も変わっているほどいい。一寸風変わりな内容とか、意味とか、その程度で、これは分かりやすい。見た感じですぐに分かる。他とは違っていることが大事。そこに価値を見出しているのだが、変わっておれば、それでいい。その口当たりがいいのだ。
 箕田は変わったものが好きだが、それ以上のものではない。深い意味はない。
 そのため、物珍しいものを見たり触れたりするが土産物屋に売っているようなものは、あまり興味はない。確かに変わったものが並んでいることもあるが、もう一段がない。
 それで、土産物屋が並ぶ筋の横道の奥に古道具屋らしきものがあるので、それを発見し、すぐに飛び込んだ。
 だが、ありがちなものしかない。仏像のレプリカでもいいのだが、好みのものがない。見慣れた仏像のためだろうか。異様なものがない。
 変わった仏像ならいいのだが、本物の仏像をコピーしたものなので、異様なものなどない。
 しかし、鬼の像などは原型がないに等しい。だが、鬼だと分かる形をしている。昔の絵にあったような。
 そして箕田は、奥の隅に投げ込まれているガラクタを見た。と言っても擦れ合わないように、それなりの隙間を置いている。一応売り物なので、傷を付けるとまずので。
「そこに妖怪がいますよ」
 店主は箕田の好みを察知したのだろう。
「妖怪の仏像ですか」
「それはないと思いますよ。だからまあ、人形のようなものです」
 それは確かに異様で、手に取る前に伝わってくるものがある。怖いというよりも、縁起の悪さを感じる。
「そのコーナーね、どれも千円です。誰も買いませんからね、一つもらって下さいよ。私なんて、その妖怪が一番だと思っていますよ。千円にしても売れないのですが、出るところへ出ればそんな値段では手に入りませんよ」
「そういうところに出されてはどうなんです」
「触るのがいやなんです」
「意味、分かります。これは触れたくないです」
「そうでしょ」
「原型は何だったのでしょうか」
「もう元の形は分かりませんよ。それをモデルにして作ったのだと思いますが」
「そうですねえ。いきなり、こんな怖いものを想像して、作るとなると、相当の気合いがいるでしょう」
「そうでしょ」
「日本のものですか」
「さあ、アジアのどかの産かもしれませんよ。どちらかというと悪魔に近いですからねえ」
「それが千円」
「置いておきたくないのです」
「はあ」
「これは日が立つに従い、変化していき、こういう姿になったのかもしれません。今も変わり続けているかもね」
「貰います」
 箕田は、騙されたと思ったが、千円なのでいいだろう。
 作る側にも変わった人がいるのだ。それだけのこと。
 ただ、買っているだけでも満足できる箕田なので、それで充分だった。
 ただし、一万円では買わなかっただろう。
 
   了






2022年3月20日

 

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