小説 川崎サイト

 

風邪の妖怪


 季候がよくなったので、妖怪博士は続けて色々なところへ出掛けていた。妖怪が出たというので、妖怪博士も出た。
 妖怪神社とか、妖怪像のようなものなどを見に行ったのだが、戻ってくると、疲れたのか、風邪を引いて寝込んでいた。
 別に妖怪に祟られたわけではない。そのタイプの妖怪はいなかったし、妖怪そのものもいなかった。ただの置物とかで、具体性はあるが、中味はない。中味を入れるのは人なのだが、そんなことで妖怪が中に入るわけではない。これは自然に入らないと駄目。
 それで寝込んでいたのだが、風邪そのものについて考えてみた。邪悪な風。もうこれだけで風邪そのものが妖怪ではないかと。
 別に探しに行かなくても、中に入り込まれている。
 邪を成すもの。よこしまなもの。風邪を引いた人にとっては、それ以外の何物でもなく、害あって益など一つもない。
 邪魔と言うことだろう。この邪魔も妖怪ではないか。そのままだ。天邪鬼という妖怪もいるが、邪魔は至る所で入る。ついついお邪魔してしまうのも邪魔だろう。
 その邪魔が臭いとなると、邪魔臭いとなる。このときの邪魔の匂いはどんな香りだろうか。やはり臭いのだろう。面倒臭いの臭いだが、これは匂いがないかもしれない。
 面倒なことをする。臭いことをする、または臭いことをやらされる。この場合の「臭い」はしんどいとか、辛いとかも入る。
 辛気臭いというのも鼻に来るのだろうか。目ではなく、口でも耳でもなく、鼻。両目の間ぐらい。
 風邪とかの、この邪系は、妖怪の中でも可愛くないタイプ。禍を呼ぶ。
 風邪は万病の元と言われているように、そこからの展開が色々とありそうだ。
 それで、妖怪博士は風邪という妖怪に入り込まれたわけではないが、身体が怠く、関節がギクシャクし、寒けもする。悪寒だ。熱も少しあるのか、動きも怠慢になる。
 寝ているしかないので、安静にしていたのだが、色々と考え事をするには都合がよかったりする。
 非合理的なものが結構暗躍し、人々に影響を与えていたりする。ただ、合理的なことが必ずしも真実だとは限らない。分かったような気になっているが、本当は分からなかったりする。その隙間に非合理的なものが入り込む。妖怪などがそうだ。神が入ったりするかもしれないが、疫病神や貧乏神だったりする。そういうものが補っている。
 妖怪が何を補うのだ。そんな良い仕事をやっているとは思えないが、風邪を妖怪だとすれば、風邪の原因は別のことかもしれない。
 物事を、もう分かったかのように蓋をしているのだが、そこから妖怪が出てくる。
 幸い妖怪博士の風邪は一週間ほどで回復していった。風邪という妖怪が暴れるのは一週間ほどだろう。それで終われば有り難い。
 風邪、それは妖怪名。最初からそう書かれているのに、妖怪博士もこれまで気付かなかった。
 
   了

 





2022年3月27日

 

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