小説 川崎サイト

 

桜と雀


 咲き始めの桜に雨。
 桜並木の歩道を浦田は歩いていた。雨の日でも散歩。
 大した降りではなく、傘がいらないほど。しかし差さないと僅かだが上着が濡れる。
 中には満開の枝がある。しかし、その下を見ると、既に落ちているのもある。
 犯人は鳥。雀が突いているのだ。花びらではなく何か甘い蜜でもあるのだろう。狙っているのは花弁だろうか。花の後ろ側の付け根あたりの赤いところかもしれない。
 そのとき、花びらも落ちてしまうのだろう。だから桜の花の形をしたまま歩道に落ちている。
 雀はこの時期を待っていた。
 浦田は雀が犯人だと思ったのは、咲いている枝から雀が飛び立つのを見たため。
 椿なら花の形のまま落ちるが、桜は桜吹雪と言われるように、分解した状態で落ちてくる。だから自然に落ちたものではなく、雀の仕業だと決め付けた。
 いや、他の鳥かもしれないが、鳥が犯人であると信じた。
 だが、信じて疑わないほどの信念はない。どちらでもいいこと。違っていても問題はない。
 このことは人には話していない。だから間違いなら浦田だけの内で終わる。外には漏れない。
 桜の花が散るのは自然。雀が突くのも自然。そこに人の手は入っていないが、桜を植え、並木道を作ったのは人。
 桜並木なので、桜しか植えていない。桜が一列に並んでいる。これは自然か、不自然か。おそらく自然界の勝手な振る舞いではないだろう。
 浦田は去年もそれを見た。そのときは雀の仕業だとは知らなかった。咲いた早々散る哀れさを感じたものだ。早咲きの桜ではなく、早散りの桜。そういうことが世の中にはあるのだと、しみじみ思いながらその下を通過した。
 しかし、その噂を何処かで耳にした。鳥が落としていると。
 それで、今年は、最初から鳥だと分かっているので、落ちた花びらではなく、上の枝を見る。
 すると花びらが動いており、鳥がいるのが分かった。
 しかし、雀ではないかもしれない。雀がその枝に来ていたことは確かだが、狙いは何だったのかは分からない。別の鳥の可能性もある。
 ただ去年、小耳に挟んだのは鳥だったか雀だったのかがはっきりしない。鳥と言っていたのか、雀と言っていたのかを。
 咲き始めの桜の花見ではないが、既に花びらが落ちているのを見て、浦田は水を差されたような気になった。これから、と言うときに落ちているので。
 桜は咲く。人は花見をするが、雀は花見はしない。
 
   了

  



2022年3月29日

 

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