小説 川崎サイト

 

若気の至り


「まだ若い十代か」
「どうかしましたか」
「縛りがない。捨てるようなものもない。分別もない」
「分別がなくては困りますが」
「分別など大人の都合だ」
「その十代がどうかされましたか」
「期待できる」
「若いですから、そのうち分別臭くなりますよ。その年代だけのことです」
「触れてはいけないことに触れようとしておる」
「駄目じゃないですか」
「触れてもいいことはもういくらでも上がいる」
「満員でしょうねえ」
「だから、空いているところは、触れてはいけないところ」
「どのような」
「語ってはいけないこと」
「それなりの事情があるからでしょ」
「大人のな。そうでないと、根底から覆される。土台が崩れるようなもの。だから、触れない」
「若い連中は崩れるようなものがないからなんですね」
「土台もない。その上に積み重ねたものはあるにはあるが、大したことはない」
「若気の至りじゃないのですか」
「その若気がなければ、出来んことやもしれん。だから期待しておる」
「しかし、それは危ないでしょ。今までのことが覆されるのですから」
「その土台が嘘だと分かってはまずい」
「そうでしょ」
「だが、薄々分かっておる。分かった上でのことだ」
「しかし、公になってはまずいでしょ」
「それは押さえ込める。簡単なことだ。しかし、押さえないで、野放しにしておいた方がいいのかもしれん」
「私も、昔、そういうことを考えたことはありますが、これは考えてはいけないことだと悟り、さっと引きました。本当のことは別にあることを知りましたが、知ったからと言って、何も変わらない。だから、余計なことは言わない方がいいと」
「わしもそうじゃが、もはや失うものなど数少ない。また、触れたくなってきたが、もう年だ。だから、それをやり始めておる若い連中を見るのを楽しみ」
「それは危ないお考えでは」
「見ておるだけで、止めぬだけ。また、もっとやりなさいともいわん」
「ずっと隠し通されてきたことです」
「それが明かされたとしても、何も変わらん。ただ、日の目を見たいだけ」
「若い連中も、途中でやめるでしょ。色々と邪魔が入るはずですから」
「じゃ、またその下の若いのがやればいい」
「そうですねえ」
 
   了

 


2022年4月3日

 

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