小説 川崎サイト

 

北小路


 何かからの連想ではないが、吉村は北小路という地名が頭に浮かんだ。知らない町ではないが、若い頃に行った程度で、もうとっくに忘れているし、繋がりもない。
 また南清水も、それに関連してか、出てくる。北小路と南清水は近いが、バスで行った方がいい。
 北少路駅前に南清水へ向かうバス停がある。それで行ったように記憶している。そして、南清水へ行ったのは、それが最初で最後。集会があった。
 これは趣味のサークルで、十代が殆ど、二十歳代や大学生が一人だけいた程度。吉村にとっては大人に見えた。
 そのサークルの人間とは半年ほど、頻繁に会うことになるのだが、それは別の場所。
 その後は、それっきりで、二度と会うことはなかった。
 吉村の住む町から北小路は遠い。今まで乗ったことのない私鉄。さらに何度か乗り換えないといけない。
 北小路駅からバスで南清水。そこは終点。どんなところだろうかと思いながら行った記憶があり、それを長く覚えていた。
 今も忘れてはいないが、何かがあったわけではなく、見知らぬ人達と会ったことが印象に残ったのだろうか。
 その記憶がふっと湧き出るのだが、そのきっかけが分からない。その集会や、そこに来ていた人達と、その後、関係することはなく、何かの出発点だったわけでもない。
 そういうことを今も思い出すのは、どうしてだろう。十代の思い出だが、何も引っ張っていないし、その後の影響も受けていない。
 しかし、北少路の駅が印象に残り、南清水の和室の集会所も興味深かった。全てが初めてのことで、一寸した冒険。
 その後も吉村は色々な団体とか、人々と接したり、参加したのだが、最初の北小路ほどの新鮮さがなかったし、緊張感もなくなっている。
 北小路からバスで行った南清水での寄り合い。どちらかというと空振りで、得るものはなかった。
 もしかして、呼んでいるのでは。今なら得るものがそこにあると。
 しかし、そんな可能性などないことは知っている。分かっていることは、初心だろう。
 そこには初心があった。
 
   了

 



 


2022年4月16日

 

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