小説 川崎サイト

 

魔法が効かない

川崎ゆきお



「どんな暮らしぶりが欲しいか? と、魔法使いに聞かれたら、君ならどう希望する」
「暮らしぶりか」
「そう、どんな生活が欲しいかだ」
「のんびり暮らしたいなあ」
「それなら既に叶っているじゃないか」
「全然」
「嘘をつけ、充分のんびり暮らしているじゃないか」
「のんびりじゃないよ。色々面倒なイベントが発生する」
「どんな?」
「電話代を払いに行かないといけないとか」
「それはイベントじゃないぜ。雑用じゃないか。自動落としにすればいいじゃないか」
「その手続きよりも、コンビニへ払いに行くほうが楽だから」
「それらはね、面倒なうちには入らないよ」
「そうかな。面倒で面倒で、電話を切られるまで払いに行かない」
「でも、結局は払うんだろ」
「仕方なくね」
「コンビニへ行ったついでに払えばいいじゃないか。請求書は届いてるんだろ」
「その請求書の入った封筒を鞄の中に入れるのが面倒なんだ」
「じゃ、請求書はどこにあるんだ」
「玄関先の台の上」
「出掛ける時に、その台の前を通るだろ」
「出入り口だからね」
「それなら、すっと持って出ればいいじゃないか。引き出しにしまい込んでるとかなら面倒だけど」
「その気が起きないし、起こしたくない」
「どうして」
「外に出た時、コンビニに寄らないといけないじゃないか」
「外に出るって、君の場合、買い物とか散歩だろ。コンビニにも寄るんじゃないの」
「寄る」
「じゃ、そこで払えばいいじゃないか」
「コンビニで買い物をしたときは請求書を出したくない。行くのなら、電話代を払うだけで行く」
「住所とか、名前とか料金とかを店員に見られるのが嫌なのかい」
「そうじゃない。これは買い物とは違うイベントなんだ」
「同じだと思うけどなあ」
「コンビニい寄るかどうかは気分の問題で、寄りたくない日もある。しかし、請求書を持っていると嫌でも行かないといけない。これが嫌なんだ」
「あのね、そういう状態をのんびりすごしているというんだよ」
「いや、のんびりじゃない。軽いプレッシャーがかかってる」
「まあ、魔法使いも呆れて後ろを向くだろうね」
 
   了


2007年10月21日

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