小説 川崎サイト

 

洗濯士


「聖あらば邪あり」
「はい」
「清きものあらば汚れたものもある」
「そうですね。それで、私達は清き世の中を作りたいと思い、立ち上がりました。今の世の中、汚れきっております。これは何とかしないといけません」
「あ、そう」
「老師様の言う通りですから。この世の中」
「で、如何致す。この世を清めるか」
「はい」
「汚れているものの中にも、少しはましな汚れと、かなりひどい汚れがある」
「でも、どちらも汚れています」
「その逆もある」
「はあ」
「清きもののの中にも、少しだけ汚れがあるものもあれば、清流もある」
「でも、清いのでしょ」
「汚れた水に比べればな」
「だから、清き世の中にするのです」
「それで、汚れたものは消えよう。残るのは清きもののみ。しかし、その中での差がある。少しだけ汚れている程度のものが、汚れたものとなる」
「でも、清い者どもでしょ」
「だが、汚れたものが消えたので、少しだけ汚れているものが目立つのじゃ。これを何とか追い出したいと思う」
「それは誰が命じるのですか」
「より清きものじゃ。お前様のようにな」
「でも、それほどの汚れではないのに、敵扱いはひどいですよ」
「だから、それを命じた清き人は、清き人ではなくなる」
「それは清めるためです。正義です」
「正義が悪を作る」
「水を差されました。しかし今の世の中、汚らしいものどもで一杯です」
「そう、見えてしまうこともある。実際にはその中にも清きところのある持ち主もいるのじゃ。少し汚れている程度の」
「では、どうすればいいのでしょう」
「清きものが天下を取り、清き世になったはずだが、汚れたものも出てくる。清きことが必ずしもいいこととは限らん。清きことで、困るものも出てこよう」
「しかし、以前よりもいい世の中になります」
「その清流もすぐに汚れてくる。そして今と同じような状態になる。その繰り返し」
「でも少しずつ良くなっているのでしょ」
「そうじゃなあ、その洗濯を繰り返したお陰でな」
「じゃ、私も洗濯に行きます」
「あまり洗いすぎぬようにな」
「はい」
 
   了

 


2022年4月21日

 

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