小説 川崎サイト

 

妖怪博士宅に虫が来た


 冬の間は姿を見せず、春の中頃から虫が飛んでいるのを見ることがある。まだ、出そろっていないのだが、草花が咲き出すと、それに来る虫が姿を現す。
 また小バエとか、腐ったものとか生ものにやって来る虫もその時期から増え出す。
 妖怪博士は炊事場の流しの三角を見ていた。水切り用のゴミ捨て。小さなゴミ箱だが、動くので気になる。
 虫が来ていることは分かっているのだが、虫の知らせとか、虫が霊的なものを託されたり、入り込むなりして飛んでいる絵を想像した。
 これは季節的に無理な虫もいる。冬の間、その使い魔になるのは休みなのだ。冬場は配達しないことになる。何を運んでいるのかは知らないが。
 だから季節外れの虫が現れると、それは使い魔だろう。魔なので悪い風に思われるが、通常の虫ではないので、魔性のもの。または魔性の使い番。虫の知らせなら、文字通り虫そのものが知らせに来る。
 これは本物の虫だろうか。または幻覚なのかは分からない。
 人間も虫も生物。親元は同じだろう。また生まれ変わりで虫になったりする話もあるが、その虫、そのことを知る術もないだろう。植物や無機物に生まれ変わることもあるだろう。虫ならまだまし。
 また、朝、起きると虫になっていた場合、これは小説だが、虫なのに意識がある。虫の意識ではなく、変身前の自分の。だが、姿を見れば分かるだろう。もう寝る前の自分ではないことを。
 それはフィクションではなく、本当にそういう状態に変身した人が、飛んでいるかもしれない。当然人だった頃の好物は食べられない。だが、行動範囲は拡がるだろう。高さが加わる。虫なので人目が気にならない。また入り込めない場所にも入れる。
 そんなことを思いながら、妖怪博士は三角コーナーを見ていたのだが、それにたかってくる虫。不思議と寒くなると、さっと姿を消す。
 いったい何処に帰るのだろうか。また、元いた場所があったのだろうか。かなりの数だ。
 また、夜中、どこから入り込んだのか、大きな蛾がワサワサしていたりする。蛍光灯にぶつかったりしているのは、そちらが外だと思っているのかもしれないが、まるで幽霊のように漂っているのもいる。これは大きな蚊に多い。
 別にメッセージはない。本人そのものがもう飛び疲れてバテていそうなので。
 そのとき偶然、虫が飛び込み、とか、先ほど亡くなった人が、虫になってやってきたとかの話もある。
 ただの虫は多いが、無視できない虫も混ざっているのかもしれない。
 妖怪博士は三角コーナーにたかっている虫を眺めているだけで、何もしなかった。
 
   了

 


2022年4月22日

 

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