小説 川崎サイト

 

ローカル話


「雨ですねえ」
「春の終わり頃の雨は落ち着きます」
「いい気候なので、晴れて欲しいところですが」
「いや、晴れれば夏が少し入ってきますから、それで暑いのか寒いのか、分からんような天気になります。まだ冬の緒が切れていないのでね。それで外ではいいのですが、屋内では暑いのか寒いのかがよく分からない。ところが雨が降ると夏が消える。外の気温と部屋の気温がほぼ同じ。そして寒いと感じれば本当に寒い。暖房を付けると丁度いい。これを暑く感じない。寒いときは寒い。これが通じる」
「微妙な話ですねえ」
「社会とはまったく関わらないどうでもいい些細な話ですが、私にとってはどうでもよくない。体調管理的にはね。しかし、そんな管理をしているわけじゃない。管理しても、暑いのに寒い、寒いのに暑い状態じゃ、何ともしようがないでしょう」
「家にいることが多いのですか?」
「こうして、外にもよく出ますが、夕方からは寝るまで部屋にいますからね。じっと座っているだけの時間も多いのです」
「じっとしているからでしょ」
「そうなんです。体の変化などは、じっとしているとき、見えてきます。体を動かして、何かをやっているときは、気付きませんがね」
「はい」
「部屋でリモコンやマウスを動かしていても、それは小手先ですからね。体の本体は殆ど動いていない。ただし、同じ姿勢だと窮屈になるので、座り直したり、角度を変えたりしますが、これは何かをしているというものじゃないでしょ。寝返りに近い」
「でも、こういう雨の日は大丈夫だと」
「そうなんです。温度が一定だと体調もいい。暑さ寒さを感じないので、安定している。従って頭も安定し、落ち着いた気持ちになれます。こういうときほど何かをするのには適しているのでしょうねえ」
「じゃ、少し涼しい程度がいいのですか」
「そうです。傾きとしては寒い方にしか動きません。寒さだけを気にすればいいのです。これは管理は簡単です。暖房するか、厚着をする。それで暑くなったりはしない。ところが、晴れている日は、寒いと思い厚着をすれば途端に暑くなる。この違い、大きいです」
「大きい?」
「失礼しました、非常に小さな話ですので、大きくはありません。しかし、私にとっては気になりましてね。大変ローカルな話で、申し訳ない」
「他に気にかかるようなことはないのですか」
「ありますがね。そちらこそ、もっとローカルで、話しても、何のことか分からないと思いますよ。それにうんと長話になる。聞きますか」
「いえ、いいです」
 
   了

 


2022年4月24日

 

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