小説 川崎サイト

 

少女と洋館


 洋館に少女がいる。まだ小学生のようだ。椅子に座っているのだが、じっとしていたかと思うと、すぐに座り直す。
 洋室だが、古いものではない。
 退屈したのか、窓辺に出て、庭を見ている。広いものではない。鳥がたまに来るので、それを見に行ったのだろうか。猫もたまに入り込むのかもしれない。そんな映像はないが。
 窓から庭を見ている少女の後ろ姿。あまり映像は動いていない。
 何かのプライベートビデオかもしれないが、ネット上にある。それをかなりの人が見ている。ダウンロードして、何度も見ている人もいる。
 少女は廊下に出て、台所へ行く。そこで冷蔵庫を開け、飲むものを出す。
 その横にある椅子に座り、ごくごくと飲んでいる。映像はそういった何でもないもの。BJMが流れているのだが、気付かないほど。
 そのまま少女は立ち上がり、台所から出て再び廊下へ。よく考えると、全編長回しなのだ。編集していないのかもしれない。
 今度は少女の部屋ではなく、両親の寝室だろうか。二部屋に別れており、少女は大きな鏡台が目当て。親は留守なのか、誰もいない。
 鏡台とは別に壁に大きな鏡がある。姿見にしては大きすぎる。まるでミニシアターのスクリーン。
 少女は鏡に近付く、当然鏡には少女が映っている。そして徐々に小さくなる。
 そして少女の横から舐めるようにカメラは回り込む。
 後の鏡台も写っている。少女と一緒に。また大きな鏡も一緒に入り込むことがある。
 そして、飽きたのか、また自分の部屋に戻り、椅子に座り、居眠り始めた。
 映像はそこで止まる。これで終わり。
 何もない。ただのイメージビデオ。ドラマ性はなく話もない。気を引くようなものもない。それがいいのかもしれない。
 これを見たある人が、妙なことを言いだした。
 カメラは何処にあったのかと。
 あれだけ大きな鏡。カメラも写り込むはずだ。
 いや、あれは上手く処理しているので、写らないのだよという人が大半。
 撮影者も出所も不明。流失したというほどの価値はない。
 何でもない映像。何もしたくなく、何も見たくないとき、重宝するようだ。
 
   了


2022年5月6日

 

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