小説 川崎サイト

 

ささやかなもの


 吉田は弱っているとき、ささやかなものでもいいと思うが、元気になると、もう少しましなものの方がよいと思うようになる。
 何がましなのかは分からないが、ささやかなものよりもいいものだろう。ただ元気がないとそんな欲も沸かない。
 ただ、一度ターゲットにしたものは、弱っていてもまだ覚えており、狙っていることは確か。すぐには無理だが、そのうち、と。
 それで元気というか普通に戻ったとき、ささやかなものなど、もう忘れている。それでは物足りないのだろう。少し背伸びをしたものを狙う。だが、これは背伸びなので、伸ばしても手が届かなかったりする。飛び上がったりすれば別だが。
 それで、上手くいかなくなったとき、弱っているときに思っていたささやかなものを懐かしく思い出す。
 やはりそこが身の丈に合っているのだろうが、よく考えると、ささやかすぎる。だからその気が起きないが、気にはなるものだ。
 弱っているとき、それがよかったのだ。これなら何とかなるだろうというレベルだったが、弱っているだけにまだまだ遠かったのだろうか。
 そして元気になると、それは遙か下。簡単なこと。だから魅力がない。もう欲しいとも思わない。
 すると永遠にささやかなものとは縁がないことになる。ただ、そこに魅力を見出せれば別。
 ささやかなもの。これは意外としぶとく、図太く、手強いものかもしれない。思っているほどささやかではないような気がする。強敵なのだ。ターゲットとしてはかなり上ではないか。
 しかし、見た感じ簡単そうだし、誰にでも出来そうなことなので見くびってしまうのだ。
 吉田はそれに気付いた。ささやかなものの強さのようなもの。
 それを考えると、並大抵なことでは無理な目標のような気がしてきた。深読みしすぎたのだろう。
 そして、それは弱っているときは簡単に見えるのだから、不思議だ。
 
   了


2022年5月7日

 

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