個々の間違い
川崎ゆきお
全体としてはそれでいいが、細かいところが気になることがある。
上田はそのタイプで、いつも細部で引っ掛かっていた。
「正しい方向だとは思うんだが、やり始めると間違っているんじゃないかと思うんだ」
「それは思い過ぎだよ」
「思い過ぎじゃないよ。そう思われるんだ」
「やっぱり思っているじゃないか」
「その思いがするから仕方がないだろ。考え過ぎとかじゃないんだ」
「でも、全体は正しいのだろ」
「そう思われる」
「そしたら、どこが違うんだ」
「これは間違っていると思うんだ」
「それは聞いた」
「実際にやるのは全体じゃないんだ。順番に部分から始める。それをやりだすと、何となくおかしいんだ」
「部分ばかり見ているからだろ」
「部分を見ないでどこを見るんだ」
「全体だよ。全体」
「全体はまだ具体的にできていない。だから見ることはできないよ」
「全体のイメージを見るんだよ」
「それは見た」
「それでも駄目なのか」
「全体は合っているけど、細部が間違っている」
「その細部が全体に合っているんだよ。もし細部を変えるとどうなる?」
「全体が崩れる」
「全体を組み立てるにはその細部が必要なんだよ」
「でも、その細部は、何か妙なんだ。これは違うんだ」
「それをね、細部にこだわり過ぎると言うんだよ」
「こだわっていないよ。おかしいから、おかしいと言ってるんだ。実際に動くのは僕だからね。こんなことしたくないよ」
「それは理解が足りないからだ」
「頭では分かっているよ。でも実際は別だよ」
「まあ、気にしないでやりなさいよ。間違ってはいないんだから」
「でも、嫌だなあ。気が乗らないよ」
「全体を組み立てるとはそういうことだよ」
「え? どういうことっ?」
「完成すれば素晴らしいと思わないの?」
「思うけど」
「それに向かっての個々の作業があるんだよ。個々の作業が目的じゃない。そういうことだ」
「でも、間違っていると思うけどなあ」
了
2007年10月24日