小説 川崎サイト

 

懐かしい町


 一つか二つ前の、ちょっと昔の家が残っている一角がある。それよりも古いかもしれない。
 三島はもう年なので、懐かしい風景だろうか。子供の頃によく見かけた家。農家ではなく住宅地。当然殆どは建て替えられて、そんな時代のものなど見かけるのは希。
 しかし築百年前後なので、そのまま残っている家もある。外壁などは変わっているが、まだ当時の木の板を張り付けた家も一部残っている。
 このあたり、辺鄙な場所なので、開発されていないのだろう。だが、充分通勤範囲内。そうでないと、こんなところに住宅地など出来ないはず。
 ところが崩れたままの廃屋もある。草が伸び放題の空き地になっているが、殆ど野原。売り出されていないのだ。
 廃村は聞いたことはあるが、廃町など知らない。ゴーストタウンに近いのだろうが、住んでいる人がまだいる。
 だから、かなり昔の住宅が残っている。
 家々の間は路地で、車が入ってこられない。だが、それほどの距離はなく、何とかなるのだろう。
 洗濯物などが干されている。子供の服もある。
 普通の家族が、普通に住んでいる。祖父が買ったり建てたりした家。孫の世代が住んでいるのかもしれない。
 三島が違和感を覚えたのは、あまりにも昔のままのため。子供の時代、三島もそういう家に住んでいたし、その頃の町内の風景を残している。
 三島が表通りを歩いていると、似た年代の年寄りが近付いて来た。単に歩いているのだろう。三島のことなど興味なさげで、用事でもあって表通りに出たようだ。
「懐かし風景ですねえ」
 つい、三島はそう話しかけてしまった。何か事情でもあり、ここだけが残ったのではないかと、それを知りたかったのだ。こんな町など、滅多にない。
「そうですか、昔のままっていうほどじゃないですがね。よく残っているでしょ。様変わりしない」
「どうしてなんでしょうねえ」
 老人は黙った。
 悪いことを聞いたのかもしれない。
「さあ、何でしょうねえ」
 老人は何か言わなければ、不審がられると思ったのだろう。しかし答えは曖昧。老人も知らないという感じだ。
 そこで、老人と別れ、三島は表通りを進んだ。古い家並みがあるのはほんの一角で、すぐに今風な家が見えだした。
 後ろを振り返ると、先ほどの老人がじっと三島を見ていた。
 三島はそのまま表通りを進んだ。コンビニがあり、ファストフード店が並んでいた。
 
   了




2022年5月17日

 

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