小説 川崎サイト

 

見舞い

川崎ゆきお



「どう?」
「悪くはないけど」
「休んだので、心配して来たんだ」
 主任は森田のアパートへ見舞いに来ていた。
「様態は?」
 森田は冷蔵庫からウーロン茶を取り出し、ホームゴタツの上のYコップに注ぐ」
「大丈夫ですよ」
「横になっていないと駄目なんじゃない」
「ましになりましたから」
「風邪だって?」
「はい」
「医者へは?」
「買い薬で」
「医者へ行ったほうがいいんじゃない」
「休めば治りますから」
「酷くなくてよかったね?」
「ちょっと熱があったので、仕事ができる状態じゃなかったので」
「ああ、無理は駄目だからな」
「はい」
「診断書は無理かな」
「行ってませんから」
「明日も休んでいいから医者で…」
「もう、明日は治ってます」
「そうか」
 主任はウーロン茶のコップには手を付けない。
「わざわざ来ていただいて恐縮です」
「心配になってね」
「軽い風邪ですから」
「油断は駄目だよ。風邪は万病の元だから」
「はい」
「明日出てこれる?」
「はい」
「じゃ、失敬するよ」
 主任が立ち上がりかけた。
「主任?」
「何かな」
「どうして、わざわざ…」
 主任はドアに手をかける。
「もう、出てこないかもしれないと思ってね」
「えっ」
「このまま辞めるんじゃないかと」
「風邪で休んだだけですよ」
「風邪を引いてるようには思えんよ」
「寝起き酷かったんですよ」
「まあいい」
「明日からまた出ますよ」
「頼むよ」
「心配なく」
「信じるよ」
「はい」
 しかし、森田は翌日も休んだ。
 
   了



2007年10月25日

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