小説 川崎サイト

 

暇潰し


「曇っているし、暗いし、肌寒いし、こんな日は何もしたくありませんねえ」
「鬱陶しい日ですねえ」
「元気が削がれます、まあ元気がないので、今日は捨てます」
「捨てる。今日をですか」
「はい、有意義なことを今日はしない」
「ああ、そういう意味ですか」
「ところが晴れていて季候もよく、元気なとき、果たしてどのような有意義なことをしているのかと考えると、それほどのことはやっていなかったりするのですよ。やってもやらなくてもいいこと。まあ、趣味のようなものですか。本当の用事もありますが、それは嫌仕事なので、元気がなくてもやりますがね」
「有意義なことですか。それは難しいです。あ、いや簡単かもしれませんが、何をするかにもよるでしょうねえ」
「日々推し進めてきたような案件です。ずっと以前から着実に前に進んでいるし、まだまだ見えない展開もある。こういうのが有意義なことと私は言っていますが、その物自体があまり有意義ではなかったりすることもありますので、一概には言えません」
「でも努力したり、励んだりしているのでしょ」
「日々精進。一番一番大切に」
「だったら、世間でいう有意義なことでなくてもいいんじゃないですか。個人的に意味があると思えば」
「確かに私にとっては意味がありますがね。これがなくなると、やることがなくなります。その意味で時間潰しということでは意味があるのです」
「しかし、天気が悪いと、元気も出ないわけですね」
「そうです。これは元気でないと出来ない。やろうと思わない。まあ、多少しんどくても出来ますがね。やはり元気なときにやる方がいいのです。その方がいい感じで過ごせますので」
「それはいつ完成します」
「こういうことには完成とか、終わりとかはないのです。ゴールのないマラソンのようなもの」
「長いマラソンですね。それじゃきりがありませんねえ。距離を決めないと」
「それが決まっていると、そこで終わります。それは困るのです」
「他の暇潰しを考えないといけないからですね」
「そうです。意味があるとすればそれです。暇潰し」
「そんな暇があっていいですねえ。僕なんて忙しくて、そんな暇なんてありませんよ」
「その方がいいのですよ」
「そうなんですか」
「そうです」
 
   了




2022年5月19日

 

小説 川崎サイト