小説 川崎サイト

 

百鬼夜行の家


「一つ目小僧はまだ出ますか」
「三つ目も、百目も出ます」
「百目とは何とまあ、それじゃ顔の大きさが必要でしょう。百も目があるのですからな。それとも目が小さいとか」
「顔面一杯が目です。ご推察通り、各々の目玉は小さいです。近くに寄らないと、ただの点」
「他の化け物はどうですかな」
「一本足でぴょんぴょん跳びはねる傘の化け物はまだ出ます」
「右足ですか。左足ですか」
「そこまで見ていません」
「今度ご覧になられたときは親指を見て下さい。どちらに付いているか」
「はい、注意して見ます」
 妖怪博士は御札を貼り付けた。
「あまり効果はないので、貼らなくてもいいのですがね」
「いえ、効果はあります。少し減ったような気がします」
「他にも色々と出ていたのですね。ろくろ首はまだ出ますか」
「後の方にいます。これは首が長いので、すぐに分かります。左右に振るのです。まるで蛇のように」
「それだけですね」
「はい、そういうのが出てくるだけで、あの者達は別に何もしないようです」
「あなたの存在を知っていますか」
「はい、見ています。私がいることをちゃんと知っている様子です」
「近付けば、どうなります」
「すっと掃けてくれます」
「掃ける?」
「ああ、避けてくれます」
「行く手を遮らないわけですね。それで、ぶつかったことはありますか」
「はい、生温かかったです。クニャッとしていましたが、意外と軽そうで、風船のようでした」
「出る場所は、座敷や廊下ですね」
「はい、外では出ません」
「外とは」
「庭です」
「ああ、それも何度か聞きました」
「前回とそれほど変わりはありません。ただ少なくなったような気がします。やはり御札が効いているのです」
「そうですか。じゃ、今日は二枚貼っておきましょう」
「はい、よろしくお願いします。出来れば、あんなもの、消えればいいのですが、急に消えてなくなると淋しいですから、徐々にがいいのです」
「次は半年後でよろしいですか」
「はい、最初の頃は毎月来てもらっていましたが、もっと間を置いてもいいと」
「そうですねえ。御札の効果もすぐには効きませんから」
「妖怪博士」
「はい、何でしょう」
「あなたがいて、助かりました。他の人に言っても信じて貰えないので」
「そうですか。でも出るのでしょ」
「はい、妖怪がウジャウジャ出ます」
「じゃ、出るのです。いるのです」
「はい」
「今はどうですか」
「いません。私一人の時でないと出ません」
「はい、それも以前お聞きしました。特に悪化していないので、このまま続けましょう。妖怪が出てもあまり気にせず、出来れば無視する方がいいのです。ポーカーフェースでね」
「はい、心がけています」
「では、お大事に」
 
   了



2022年6月7日

 

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