小説 川崎サイト

 

妖怪喫茶


 妖怪博士の知り合いに幽霊博士がいる。幽霊博士はまだ若く、そのためか妖怪博士に色々と相談を持ちかける。
 妖怪博士宅の近くまで来ていた幽霊博士は、駅前から電話し、妖怪博士を呼び出した。そういう約束事になっている。近くに来たときはそうするようにと。
 駅前でいつも会っていた喫茶店がなくなったので、駅から遠いが、古くからある面倒臭そうな店を妖怪博士は指定した。
 そんな面倒な店など行かなくてもいいのだが、タバコが吸える店は、駅近くにはもうない。
 面倒臭い店とは、何かややこしそうな店で、常連しか来ない店。しかも一癖も二癖もありそうな普通の客ではない。
 妖怪博士は一人では行かないが、人と一緒なら入る。二人だと、それだけで結界が出来ているようなもので、店の者と関わらなくてもいい。これも一種のマジナイのようなものだが、面倒臭くて、ややこしく、普通の人ではないような人の中に妖怪博士も入っているのだろう。それ以上の。
 だから心配しなくても、誰も妖怪博士とは関わらないだろう。
 しかも、その日は幽霊博士。心霊博士とも言う。どちらにしても、そんな博士名はない。その幽霊博士がさらに異様で、ややこしいものを発しており、誰も近付かないはず。だから最強コンビなのだ。
「どうですかな、心霊の方は」
「相変わらずです」
「心霊方面では妖怪はどう扱っておるのかな」
「霊を扱いますので、妖怪は無視です」
「妖怪も霊ではないのかな」
「いや、元々が人間とか、動物とかでないとだめなんです。妖怪は最初から妖怪ですから。それに肉体のようなものを持っている場合が多いでしょ。霊は肉体を持っていないとされています。肉体から抜けたわけですから」
「あ、そう。じゃ、妖怪は心霊現象としては扱われんと」
「妖怪のような姿で現れる霊もいますが」
「守護霊とか背後霊とかはどうなんじゃ」
「僕も、いろいろと調べましたが、背後で守ってくれる霊がいたら、ありがたいと思いますが、そこまで手を貸してくれるかどうかは疑問です。だって、肉体がないのですから」
「じゃ、猫の手の方がましか」
「そ、そうですね」
「守護霊とか、背後霊とかが見えるという人もおるが、どうなんじゃ」
「見えるんでしょうねえ」
「目でか」
「さあ、僕は見たことがないので、どんな見え方をするのか分かりませんが、五感ではないような気がします」
「しかし、幽霊博士、君も面倒なことをやっておるんじゃなあ」
「はい、妖怪博士の言われるように、やめるべきなのですが」
「それに越したことはない。目の周りが黒いのでな」
「はい、だから、出来るだけ深入りしないように心がけています」
 そのとき、店の客が三人ほどいるのだが、妖怪博士達を指差している。マスターらしい老人は知らぬ顔のまま。
 妖怪博士も幽霊博士も客を直接見ていないが、気配で分かったのだろう。二人は黙った。そして、そっと客の方を見た。
 三人のいかがわしそうな客と目が合った。その瞬間、三人は立ち上がり、二人に近付いた。
 薬入れのような鞄からメモ帳を取り出し、サインを下さいと言った。他の二人も、何やら紙を出してきた。
 妖怪博士だと分かったらしいが、そこまで有名ではない。
 妖怪博士は三人にサインをすると、三人はさっと元のテーブルに戻った。
 そして、チラチラと二人を見ている。
 その視線がきつくて、妖怪博士も幽霊博士も落ち着かない。
 二人は出ることにした。
 マスターは下を見たまま、目を合わさないで、レジを打った。
 また、ドアを開けて出るとき、有り難うございますなどの声もなかった。
 きっと関わりたくないのだろう。
 幽霊博士はその喫茶店を妖怪喫茶と名付けた。
 
   了

 



2022年6月13日

 

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