小説 川崎サイト

 

妖怪博士の妖怪体験


 暑くなってきたので、妖怪博士はガラス戸を開け、縁側の向こうにある庭を見ていた。
 動くものがあるためだ。室内には他に動いているものは時計の秒針ぐらいだろうか。それよりも庭で動いているものの方が目立つ。
 草だ。伸び放題の草の中に背の高いのがあり、その腰が弱いのか、ちょっとした風でも揺れる。なびくというほどの数はない。
 草。それを見ていると、妖怪を思い出す。そんなものを見た覚えはないが、何となくいそうな雰囲気のする古寺の前。
 寺の中ではなく、その前の野原。これは空き地だが、寺が所有しているようだ。いずれ駐車場にもなるのかもしれないが、それを見たあと、もう何十年も行っていない。
 だから妖怪博士がまだ若い頃の話。その草むらの中に分け入り、何か怪しそうなものはないかと探していたのだ。
 大きな石がある。岩ほどの大きさのもある。石仏でもありそうだが、それらは寺の中に入れているだろう。それは既に確認している。
 夕暮れが近いので、少し暗い。
 寺の門は開いており、中が見える。既に明かりが入っているが、中の人の姿は見えない。遅くまで門を開けているものだ。寝る前まで開いているのだろうか。そこまで遅い時間に来たことはないので、知るよしもない。ただ、知ったからといって凄いことを発見したわけではない。
 寺の中は何度か入ったことがあるので、よく知っている。門を潜ると、いきなり左手側に古そうな墓がある。いずれも住職だった人達の墓。
 寺は結構大きいのだが、かなりくたびれている。瓦もずれているところがある。
 寺よりも妖怪博士は草むらが気になった。気に入ったというか、何かいそうなので。
 そして、見たように感じたのは子供ほどの背丈の毛むくじゃらの妖怪だった。まさにケモノ。しかし、チャンチャンコのようなのを着ている。だから動物ではない。
 そういうのを妖怪博士は見たわけではない。その後、夢の中で見たのだ。あのお寺の前の草むらの夢。
 何かいそうな雰囲気がすると思っていたのが、これだったのかと、夢で知らせてくれたようなものだが、何せ古い話なので、記憶がごっちゃになり、草むらで実際に妖怪を見たように思い込んでいたこともある。これはあとで気が付き、修正された。あの妖怪は夢の中だけに現れたのだと。
 しかし、何かいそうな雰囲気が確かにした。
 服、この場合着物だが、衣服を身につけたケモノ。何処かで見たイメージが流れ込んできて、合成された映像になったのかもしれないが、そうだとは言えない存在感があった。
 妖怪博士は幽霊も妖怪も、また霊体験や不思議な現象と遭遇したことはないのだが、想像は出来る。
 あの寺の前の草むらで、何かいる気がしたのは、まだ若かったので、感受性も高かったのだろう。今は幽霊がすぐそこにいても、まったく何も感じないはず。
 妖怪研究にとって、感じない方がいいのだろう。
 
   了

 



2022年6月15日

 

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