小説 川崎サイト

 

妖怪神社


「妖怪神社はありましたか」
「あったような気もするが、もう忘れた」
「似たような話、多いですからねえ。でも、またやりませんか、妖怪神社」
 妖怪博士は、やるもなにも、そういう依頼なので、仕方がない。適当に書けばいいと思っていたので、細かい話は、もうどうでもよかったのだろう。
「ところで妖怪は神社系ですかお寺系ですか。お寺系なら妖怪堂とかがありそうですねえ」
「それはある。勝手に誰かが作ったお堂で、これは神社や寺とも関わっておるが、実際には関与していない。そのへんにある道端の祠とか、石地蔵とかに近いのかもしれん」
「曖昧ですねえ。ところで妖怪は誰が扱うのでしょうねえ」
「妖精は自然界の中で、湧き出しておるようなものなのでな。だから日本の妖怪は妖精のようなものだとすれば、これは神社が近いかもしれんが、神社以前の自然崇拝や山岳信仰とかもあるのでなあ。まだ神社もお寺もなかった時代じゃ。その頃から妖精とかはいたはず。妖怪もな。妖精に比べ、妖怪は怪しい存在だが」
「神社が出来るまでは誰が扱っていたのでしょうねえ」
「扱うとは、どういうことかな」
「管理というか、縄張りというか、受け持ちというか、窓口というか」
「縄文時代や石器時代には寺も神社もない。しかし自然崇拝とかはあったはず。山が神とか、動物や物が神」
「人格神はどうでしょうか」
「神に相当する生き物はおったかもしれん。人型の神様はどうかなあ」
「蛇とかが神様だったりとかは、ありそうですねえ」
「先祖神とか氏神が、蛇だったり、熊だったりしそうじゃがな。やはり氏神は人格神の方が偉そうに見えるのでな。氏神がケモノではなあ」
「それと妖怪とは結びつきませんか」
「さあ、それは、その時代の人でないと、よう分からんかもしれん。畏怖の念とかな」
「難しそうな話ですね。もっと単純な妖怪神社の話で、お願いします」
「妖怪神社か、まあ語呂がいいからなあ」
「はい、それだけです」
「御神体が妖怪。これは駄目じゃろ」
「八百万の神がいるはずなので、妖怪神が混ざっていてもいいでしょ」
「やはり有名ブランドの神でないとな。表向きはな」
「裏でややこしいのを祭っていると」
「ややこしくはない。元々、そういうややこしい神が祭られておったのじゃろう。それを隠して、裏に回した。メインの神殿ではなく、裏っかわにある小さな祠とかにな。場合によって名前も変えて」
「じゃ、妖怪を祭っていた神社も、裏に隠したとかも」
「いや、妖怪を祭るのに神社などいらんだろ。神社らが立つ前から、そういう場があったんだろう」
「人に祟ったり、禍を起こしていた妖怪を鎮めるため、神として祭るとかもあったんじゃないですか」
「知らん知らん」
「そこを何とかして下さい。お話になるように」
「まあ、話ならいくらでも出来るが、あまりややこしいことをいうと、妖怪に祟られるかもしれんぞ」
「祟り神の妖怪。強そうですねえ」
「妖怪は想像上のもの。しかし、いると思い込めば、本当にいたりする。リアルな本当の現実。そういうものも、実際には本当のことまでは分からん。現実というのは捉えることが出来んのじゃ」
「はあ」
「全てが想像」
「物には迫れないということですね」
「ただ、気配はある」
「物の、ですか」
「それを、もののけという。つまり妖怪じゃ」
「話が難しいです。単純な妖怪神社のアトラクション物で、お願いします」
「ああ、分かった」
 
   了



2022年6月23日

 

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