小説 川崎サイト

 

西村山ヘルスセンター


 西村山神秘会から妖怪博士は招待を受けた。是非来て欲しいという話で、当然公的な組織ではなく、神秘事に興味のある有志が集まったもの。
 東村山はヘルスセンターがあったことでその地名は妖怪博士も知っていた。健康ランドだが、要するに大きな銭湯のようなもの。
 大広間があり、舞台まであるので、地方回りの歌手とか、一寸した歌謡ショーや芝居もあったようだ。そういう全盛期は既に過ぎ去ってから久しく、今は廃墟。
 ここを管理している会社に知り合いがおり、西村山神秘会の集会で使わせて貰っている。だからそれなりに常識のある一般人で、特に悪さをするような人々ではない。単に神秘事が好きなだけ。
 妖怪博士は当然、西村山ヘルスセンターに招かれた。月例会でのゲストらしい。
 ヘルスセンター前は鉄柵で囲まれているが、この日のこの時間だけは入口が開いており、妖怪博士は玄関先で車から降りた。駐車場もあるが、こちらの方が入口に近いので。
 当然昼間で、電気がないので、夜は無理。昼間でも奥まったところは暗いので、外に面した大広間なら問題はない。ガラス戸が何枚も並んでいるが、雨戸やシャッターのようなものはない。
 しかし、演芸用の舞台がある関係で、遮光カーテンが二重になっている。それを開けると、大広間は結構明るい。
 月に一度、このサークルはそこを利用しているため、大広間の一箇所だけだが、絨毯は綺麗だ。掃除しているためだろう。
 テーブルなどは隅に積まれている。座椅子はない。 それを集会用に並べて、席を作る。ただ、十人はいないので、窓際のいつものスペースで、こじんまりと。
 舞台はあるが、暗いので、そちらは無視。
 ただ、古くなった絨毯の上に座るのは、一寸気持ちが悪いのだが、何度かそのコーナーだけ、洗剤で洗っているようだ。
 妖怪博士は集会が始まる前に、ヘルスセンター内を案内された。大浴場は干からびており、乾燥しきり、埃っぽい。水分が足りない。
 遊技場に古いゲーム機や、アナログ式の横に寝かせたパチンコ台のようなものがある。いずれも埃を被り、ガラスの下はよく見えない。
 流石に窓から外れると薄暗いので、動物の乗り物とかが異様な姿に見える。これは児童が乗るタイプだろうか。象とか熊とか程度は分かる。
 天井の高い二階建てだが、エレベーターはある。当然動いていない。
 屋上も遊園地のようになっており、家族連れで遊べる場所だとは分かる。パラソルが隅っこに寝かしてある。
 この神秘会。別にヘルスセンター内を冒険する会ではない。集会場所としての雰囲気が良いので、密かに使わせもらっているだけ。知り合いの管理会社の人が退職するか、転勤すれば、それまで。この人も一応は会員だ。
 妖怪博士は別に講演をするわけではない、十人ほどなので、いきなり妖怪についての質疑応答で始終した。
 神秘会にとり、妖怪も扱うというレベルで、妖怪研究会ではないので、それほど妖怪に詳しくはなく、中にはそんな幼稚なものなど興味がない人もいるが、妖怪博士が来ているので、そういう素振りは見せない。
 それに経費もかかっており、それは持ち寄ったものなので、好意的なやり取りになる。
 妖怪博士は、ヘルスセンター回りの演歌歌手のように、方々でお呼ばれがあるわけではないが、こういった小規模な集まりでにはよく行く。というより、大きな組織からのお呼びがないだけの話だが。
 神秘会よりも、このヘルスセンター跡の方が気になるところだが、メンバーに聞くと、特に何もないらしく、何も出ないし、妙なことも起こらないらしい。
 ヘルスセンター跡で、集会をする。これがこの西村山神秘会最大の神秘事なのかもしれない。
 
   了



2022年7月11日

 

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