小説 川崎サイト

 

定点観測


 広田は月に一度行く場所がある。立ち寄るだけで、特に何もしない。人と合うこともあるが、滅多にない。
 これが広田の定点観測になっており、あれからひと月が経ったことが分かる。そこは、それほど変わらないし、変化も少ないので、変わっていくのは広田の方だろう。
 そこも実際には変わっているはずだが、月に一度なので、その間の変化は分からない。
 先月、来たときは、こんな状態だったと、その場所ではなく、広田は先月の自身の状況を思い出す。あれからひと月が経ったのか、というように。
 これが数年続いている。しかし、去年の今頃はどうしていたかについての記憶は曖昧。
 だから先月やその前の月程度が射程距離。そこなら覚えている。
 悪い状態が続いている場合、先月と同じように、今月も悪いとなる。それが改善されておれば、先月とは違う、となる。
 それで、今月はどうか。先月は悪い状態から回復していたので、よく覚えている。
 そして今月は、また悪い兆しが少しあった。この続きは来月に分かるだろう。一ヶ月後、どうなったのかが。
 ただし、これは一週間単位ではなく、ひと月単位。だからその週に起こり、そしてその週に終わったこととは、少し違う。扱いが。
 短期すぎるためだ。前日、苦しかったのに、今日は直っていたとかは、もっと短い。また数時間で解決するタイプもある。
 だが、それが尾を引き、まだ続いていると、先月にはなかった問題が、今月もまだある、となる。
 その場所での変化ではなく、まるで広田の変化を見に行くようなもの。立ち寄り先での話ではない。
 その場所はいつ行っても同じ。ただ、季節が変わるので、ひと月での変化は多少ある。今月などは夏になっているため、先月よりも暑い。道に日陰がないと厳しい。行くだけでも疲れたりする。これは広田の変化ではなく、季節の変化。
 ただ、今年は去年よりも暑さに強くなったのか、または、まだそれほど暑くはないのか、あまり厳しさはない。これは年単位での変化。
 定点観測だが、その場所ではなく、広田自身を観測しているようなものだ。
 
   了




2022年7月14日

 

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