小説 川崎サイト

 

怪しい小坊主


 成念寺の小坊主にややこしい子がいる。近在の子だが、いわば口減らし。そういう子が数人いるが、誰も坊主になりたいと思い、来たわけではない。自分の意志ではなく、連れてこられたのだ。
 またお寺も、こういう子が欲しいと思い、頼んだわけではない。
 成念寺はそれなりに豊なのだろう。数人の子供を食べさせること出来る。まだヒナだが、大きくなると、ニワトリのようになる。
 そのニワトリが数人いる。成長したのだが坊主にならず、寺の雑用をやっているのが、それだけではない。寺の用心棒にもなる。流石に僧兵とまではいかないが。
 当然、意には反していても、小坊主時代から教えを受け、正式に僧なった子もいる。もうこの寺にはいないが。
 さて、そこに怪しい小坊主がおり、ややこしいことばかりを和尚さんに聞く。
 不思議なことに興味を抱き、それで、嫌々ながら寺に放り込まれたわけではなく、お寺や坊さんが何やら怪しげに見えたのだろう。だから、怪しいことが好きなので、丁度よかった。
「人は己の頭の中だけで生きておるのでしょうか」
 何処でそんなことを聞いてきたのか、確かに妙なことを言う。
「他の人にも頭はあるじゃろ。わしにも頭がある。野良に出ておる人達にもそれぞれ頭がある」
「それぞれ、その頭の中で生きていると聞きましたが」
「人など、思うようにはならん。自分の頭の中の人なら何とかなるやもしれんがな」
「そうですねえ」
「それに見たことも聞いたことのない人達にも、それぞれ頭がある。そういう人達は見えんじゃろ。しかし、この村へ遊びに来るかもしれん。いきなりお前様の頭の中で湧き出したわけではなかろう。その他国の人が生まれてからの長い時間がある。そこまでお前様の頭の中に入っておらんはず」
「そうですねえ」
「誰から、そんな話を聞いたのじゃ」
「この前に立ち寄った旅の雲水です」
「吉備坊だな。お前様とは気が合うかもしれん。不思議な話が好きでな。そちらへ行ってしまい、いつも旅の空。そして浮き世もうわの空」
「私もそういう人になりたいと思います」
「困ったものじゃ。まあ、仏の教えも似たようなものじゃがな」
「そうでしょ。怪しいでしょ」
「そこで喜ぶでない」
「はい和尚様」
 
   了





2022年7月15日

 

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