小説 川崎サイト

 

上手く言っている



「上手く行ってるかね」
「上手にですか」
「思っていた通りにだ」
「はあ、色々と思っていますが」
「だから、希望するもの、これが欲しいとか、こうなったらいいな、といういうなことが上手く進んでいるかね」
「はあ、何となく」
「そういうことで、何となくはないでしょ」
「すみません」
「まあいいが、上手く行っているかどうかが心配でね。一度聞いてみたかったんだ」
「親戚の叔父さんでも、今どきそんなこと、聞きませんが」
「それは叔父さんにもよるだろ。叔母さんかもしれない。要は挨拶だ。始終顔を合わせているわけじゃない。だから様子伺いだ。達者で暮らしているかどうか。ただ、本気で聞いているわけじゃない。一応聞いただけ。挨拶なんだよ」
「何でした」
「だから、上手く行っているかだ」
「生活が、ですか」
「まあ、それも含めて、順調か、どうかだ」
「思う通りに行っていると思いますが」
「それが、この様か」
「思う通りだと思いますが」
「心配していた通りだ。この様を見て」
「これは、そうなったのです」
「希望したことか? 望んだことか? 計画通りのことか?」
「そうじゃありませんが、何となく、こういう感じです」
「ぼんやりしているから、そうなったんだ」
「これは、なるべきしてなったような感じでして」
「感じが多いなあ。それに、なるべきとは何だ」
「すみません」
「望みもしないことになっていないかね」
「いえ、これも、ありかな、という感じです」
「また、感じか」
「すみません」
「要するに、なるようにしかならんという話か」
「でも、なっています。それなりに、これが何となく正解で、本筋だったような気が、今はしています」
「じゃ、心配はしなくてもいいんだな。といっても助けることは出来ん。私の方が困っている状態だからな。そんな余裕はない。ただ、助言ぐらいは出来る
「有り難うございます。事足りています。順調です。これでいいでしょ」
「上手く言うやつだ」
 
   了





2022年7月20日

 

小説 川崎サイト