小説 川崎サイト

 

連想するは我にあり



 少しの間、忘れていたようなことがある。かなり久しい場合もある。ふと、それを思い出すのは、いきなりふっとではなく、何かに触れたとき、連想的に頭をよぎるのだろう。連想ゲームではないが。
 白峰は、ある言葉から地名を連想した。その言葉、何処かで聞いたことのある言葉だが、地名だけではなく、もっと他にも色々とあるはず。
 これはある映像を見ていたとき、ナレーションで流れてきた言葉。初めて聞くような言葉ではなく、人名。
 だが、白峰は同名の誰かを思い出したわけではなく、地名を思い出した。かなり、遠い。その場所ではなく、連想的な距離が。
 それに、その言葉、ここでは人名だが、何も連想しないときもある。聞き流す程度。人名なので、その映像の中に出てくる誰かなのだが、それが分かれば充分。
 それで、忘れ去ったようなその地名が気になった。なぜ、それを思い出したのかが不思議。
 柏木という言葉。ナレーションでは人名。白峰が思い出したのは地名。お隣の市の中にある小さな町。
 市町村名なら何となく分かるが、もう一段下げた町名になると、これは昔でいえば村単位だろう。それらが集まって市町村になる。
 ただ、駅があり、その駅名の方が市町村名よりも知られていたりすることもある。
 さて、柏木町。ここに古墳がある。周囲は住宅地だ。その道が丸くカーブしている。しかも綺麗に半円を描いている。大きな円墳なのだが、墓場になっている。
 白峰は最初、それが古墳だとは知らなかった。それも長い間。そんな案内板は出ていないし、扱いは何処までも墓。このあたりが村だった頃の村墓だろう。それで一杯一杯になったのか、古い墓ばかり。
 表道からは入れないが、裏に回り込むと鉄の柵があり、それを開ければ、入れる。鍵はかかっていない。
 しかし、住宅地のど真ん中にあるので、下手なことは出来ないだろう。死人の目よりも、住宅からの目の方が怖い。
 この柏木町を訪ねたのは偶然で、友人宅を訪問したときに立ち寄ったもの。
 偶然、ふっと思い出したのは柏木の町だが、その先に岩美町があり、友人はそこに住んでいた。
 だから、柏木町ではなく、実は岩美町の友人を暗に思い出させる仕掛けなのかもしれない。かなり回りくどい、
 岩美町の友人といっても、数回訪ねただけで、その後は合っていない。縁が切れた。
 岩美町の岸和田。この友人に何かあるのだろうか。そこを思い出せと言うことだろうか。
 しかし、よくある友人関係の一つで、懐かしく思う程度。
 だが、柏木町を思い出したので、ついでに岩美町の岸和田まで釣り上げた感じだ。
 何かすごいことが隠されており、それが浮上してきたのかと思ったが、古墳も岸和田からも別に深い意味など出てこなかった。
 空連想だ。
 
   了
 


2022年7月22日

 

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