小説 川崎サイト

 

作田の案



 暑いので、今日はもう仕事を早く済ませ、いや、途中で切り上げ、早く帰り、家でのんびりしようと作田は決めた。
 作田が決めるだけで、それは実行出来る。なぜならそこは個人オフィス。作田に上司や同僚や部下はいない。タイムカードもない。だから、作田が決めれば、それで実行出来る。
 冷房は効いているのだが、西日が差し込むと、もういけない。冬場はいいのだが、この時期だけは暑い。ブラインドを下ろしていても熱気が入って来る。ビルの壁が薄いのだ。
 それで、ここを出てどうするか。オフィスを閉じるわけではない。ただの退社。しかし、社ではない。会社ではない。個人事業主。
 出て、何処かに寄ってもいい。家に戻ってご飯ごしらえをするのも、面倒な日。外食で済ませれば話が早いし、楽。
 そうするか。と作田は考えたのだが、何処で何を食べるかを考え出すと、思い付かない。外食は殆どないため。
 全て自炊。その方が好きなものを好きなだけ食べられる。嫌いなものが定食に入っていると食べないで残す。それがもったいない。
 だから寄り道をするとすれば食材を買いにスーパーへ寄る程度だが、ここはビジネス街。いつもの近所の駅で降りたとき、そこにあるスーパーへ寄る方がいい。それならいつものこと。
 それで、戻ってからどうするのか。少し時間は早いはず。暑いので何もしないで、のんびりと過ごしたいのだが、ご飯はあるが、おかずがない。
 だから、やはりいつものスパーへ寄り、出来物の惣菜を買うのがいい。こなら、すぐに食べられるが、時間はまだ早い。
 そこまで決めたのだが、まだ時間が早いこともあって、寄り道案もまだ未練がある。ただ、この暑さではウロウロしたくない。それで、寄り道案は捨てた。
 何もしないで、冷房の効いた寝床で、ぐたっとなるのがいいだろう。
 しかし、それでは芸がない。折角早く切り上げる気なので、それなりのことをしたい。
 だが、本筋は、何もしないでゆっくり過ごすこと。だから余計なことをしない方がいい。やはり蒲団の上でゴロンとしているのがいいだろう。
 ただ、今から戻っても、それほど長い時間、昼寝のようなことが出来るわけではない。少し早い目に戻る程度。だからあまりのんびりとは出来ない。
 やはり、もう少し、仕事の続きをここでやるか。と考えのだが、一度気を緩めたため、それは無理。
 そのうち息苦しくなってきた。今日の西日はきつい。夏の夕方は、ここにいられない。借りてから初めての夏。秋に借りている。冬場はいい感じなのだが、夏場は厳しいことが分かった。
 とりあえず、今日は早くここを出たいので、帰る用意をした。
 そして、色々とこのあとの案はあったのだが、帰りの電車内で居眠りをし、終点まで行ってしまった。
 確かにその間、のんびり出来たのかもしれない。だから、初期の目的は果たせた。
 
   了


 
 


2022年7月28日

 

小説 川崎サイト