小説 川崎サイト

 

三船越えの怪



 三船越えは難所。山が険しいのではなく、人が少ない裏街道のさらに裏道のような場所なので、まともな旅人ではないような旅人が使う道。そのため、まともではないものが現れるため、一人では危険なので、道案内人がいる。二人連れなら襲われる危険性が少ないとされているが、その案内人、そのものがまた、まともな人とは思えない。そういう扮装をしているため。野性的な山伏のようだが、どう見ても山賊に近い。
 三船越えが難所なのは、出るため。これは山賊とされているが、始終出てくるわけではない。
 先ほどの道案内が道案内人をやっているときは出ないのは、そういう事情だ。
 そのため、道案内を付けずに行くと、出る。しかし、出現する側にも事情があるので、いつもいつも出っぱなしではない。
 ある旅慣れた旅人は、それを知ってかどうかは知らないが、そこを通るときは、必ず道案内を付ける。案内料はかかるが、山賊に全部持って行かれることを考えると、通行料のようなもの。
 この旅人、この道案内人が山賊だと何となく気付いている。
 三船越え、一寸した山越えだが、山向こうには出ない。少し見晴らしがいいし、里が見えているほどなので、淋しい場所ではない。
 その旅人、先払いで道先案内料を払い。案内人のあとに付いて登り道に差し掛かっていた。
 そろそろ出る頃だが、この案内人の一人二役なので、出るわけがない。
 確かに迷いそうな枝道があり、どちらも同じ道幅なので、これは迷う。流石案内人は分かっているので、迷うことはない。これだけでも案内人を雇っただけのことはある。
 三船峠が見えてきた頃、あと少しというところで、案内人がこちらを向き、逃げろと合図する。そして旅人よりをすり抜け、山をさっさと下っていく。
 下る案内人を旅人は見たあと上を見ると、人影。
 出るはずのない山賊が出たことで、旅人は驚いた。
 その山賊、先ほどの山伏姿の案内人と似たようなのを着ている。しかし、顔は全く違う。髭だらけなのだ。
 どうも山賊ではなく、本物の山伏らしいが、山賊とも取れる。
 旅人は立ち尽くしたまま。
 山賊も、そこから動かない。襲ってこないのだ。
 それで森の中で熊と遭遇したように、睨めっこをしているのだが、相手も動かないので、何か妙だと思い、気になって前に出てみた。すると、山伏のような髭面の山賊が、すっと掻き消えた。
 山伏でもなく山賊でもなく、山の怪だったのかもしれない。
 
   了

 





2022年7月29日

 

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