小説 川崎サイト

 

黒くて柔らかな道


 道が黒い。そして柔らかさを自転車のタイヤが感じた。タイヤに感覚があるわけではない。感じたのは里中。これは名で、ここは街中。住宅地。
 お盆あたりから影が伸び、道が黒くなることは知っていたが、そんな状態になるのはもっと日が傾いてからだろう。この黒さや柔らかさは舗装されたばかりのため。
 そして、工事直後ならまだ温かいだろうが、その暑さではなく、そこに侵入したときに暑さを感じた。そして綺麗に平してある。デコボコがない。見事なものだ。しかし、なぜか暑い。
 アスファルトかコールタールか、どれかに当てはまるだろうが、敷き立てはやはり暑い。これは古い道なら土や砂などが浮いているので、それで緩和されるのだろう。
 その黒い道はほんの僅か。その前まで何度か工事中で通れなかった。複数の工事が何度もあったのだろう。
 それで剥がしすぎて、つぎはぎだらけになり、いっそのこと全部剥がして敷き直したのかもしれない。電信柱が二つほどの距離なので、道のほんの一部。
 その左右を見ると、更地に手が入り出している。それで前のその道路からパイプでも繋げるのだろう。その向かいも新築中の家。ここも同じようなことになっているはず。
 それだけではなく、もっと他の工事も重なっていたのかもしれない。
 里中は真新しい黒い道路を走りながら、タイヤが滑らかに転がる感じが気持ちよかった。そしてなぜか弾力がある。この柔からかな黒い道というのは今だけかもしれないが。
 その黒い道、実は毎日通っていた。工事で通れない日が終わったので、これからはここを走れるはず。
 新鮮な黒い道。そう思うのは、数日の間かもしれないが、まるで新雪を踏む感じ。
 だが、真夏。そして柔らかくて妙な生温かいのは冬ならいい感じだったかもしれない。暖房付きの道。
 道が固いとか柔らかいとか、黒いとか白いとかはどうでもいいような話なのだが、感覚はそういうことでも相手になる。
 もし、そういう感覚が消えると、危ないだろう。
 里中は、そういうどうでもいいようなことを考えてしまった。
 
   了

 




2022年8月14日

 

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