小説 川崎サイト

 

あるバグ


 よい情報は向こうからやってくる。そう見えるが、それを探していないと目に入っていても、目に入らない。
 歯医者を探しているときは目医者の看板は見えない。実際には見えているのだが、目ではなく歯。
 そして歯医者らしき看板はかなり遠くからでも見えたりする。目の前に大きな目玉の看板があっても無視。
 岡田はある情報を得たのだが、その時、探していたわけではない。だから向こうからやってきたようなもの。もし探していたとすれば、その方法ではなく、別の方法。
 だが、見付けた情報はそんなところにはないと思うような場所。ただ、それに近い情報がある場所だが、隅々まで見ていない。それに見る習慣もない。
 その日は何となく見てしまった。まるで誘われるかのように。いつもならそんなことはない。
 そして、何となく見たものの中に貴重な情報があった。こんなところにあったのかと、驚くほど。ここにはないと思い、最初から探しもしないし、そんな場所ではない。
 誰からも教えて貰っていない。宝の山とまではいかないが、常日頃から探していたものが含まれている。別のところを探したこともあるが見付からなかった。そのため、もう方々探したので、ないものと諦めていた。
 歯医者を探しているときと同じだ。ただ、日頃から歯医者や目医者など探していないが。
 これはあることを気にしていると、それに近いものを見ると、ドキッとするのと同じ。
 朝から胃の調子が悪いと思っているとき、内科の看板がもの凄く見えたりする。
 誰かが死にそうなとき、葬儀屋の看板が目に入ったりする。
 それとは別に、岡田は妙に感じるものがある。それは歯医者や目医者や内科や葬儀屋のパターンとは違い、思い当たること、気になるようなこととは関係していないのだが、クリーニング屋の看板がバーンと入ってくる。
 なぜクリーニング屋なのかは分からない。何も思い当たらない。しかし、目に入る注目度が違う。これでしょ。これ。と言われているような。
 しかし、クリーニング屋に用事はないし、洗濯関係のことなど関心はない。別に問題はないため、クリーニング屋はクリーニング屋で、そういう看板もあるだろうという程度。
 これが先触れのようなもので、伏線のように、あとで正体を現す、というのなら、分かるが、そうでもない。
 注目させておいて、そのあと、何もない。スカ。
 しかし、クリーニング屋的何かに触れたのだろう。
 クリーニング、洗濯ではなく、その文字の書体とか、その色とか、その看板の形とか。それがある場所などに、何か引き付けるようなものがあったのかもしれない。
 何かに注目したのだが、何で注目したのか、その注目原因が分からない。
 前田は、そのあたりはバグだと思っている。
 
   了



2022年8月15日

 

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