小説 川崎サイト

 

盆帰り


「お盆が近いようですね」
「そうですね」
「去年のお盆はどうでした」
「お盆休みでした」
「お盆、やりましたか?」
「ああ、お盆の行事のようなものですか、迎え火とか送りとか」
「やってましたか?」
「子供の頃は玄関で焚いていました。花火と同じ場所です。でも地味です。それが何か薄気味悪くて」
「しかし、もう住宅地では燃やせる場所がないでしょう。焚き火なども出来ないでしょうし」
「そうですねえ。でも近所の家ではまだやってますよ」
「チョロ火だから、いいのでしょうねえ。別に凄い煙が立って、煙たいとかも、あまりないでしょうから。しかし、住んでいる人も世代が変わると、もうそんな火は焚かなかったりしますから、それであまり見かけなくなったのでしょうねえ」
「そうですねえ」
「で、去年のお盆はどうでした」
「お盆なので普通に休んでいました」
「お盆のことはやりましたか」
「実家じゃないので、仏壇もありませんから、先祖も、うちには帰ってこないと思いますよ。だから、何もしていませんでした」
「その前の年は」
「ああ、忘れました。遊びに行ったのは覚えていますよ。一泊でしたが、人が多くて困りました。やはり盆休みに行くものじゃありません」
「何かお盆らしいものをやらないのですか」
「実家に帰れば、お盆のお供え物がある程度で、特に変化はありません。爺さんや婆さんがいた頃は提灯なんかを出してきてましがね。迎え火も送り火もやっていました」
「じゃ、今は実家でもお盆はしないのですか」
「そうだと思いますよ。でも坊さんが来ます。でももう数年前からやめてますがね」
「色々と有り難うございました」
「何かアンケートですか」
「いえ、あまり帰っても歓迎されないようなので、今年からもう戻らないことにします」
「あなた、誰ですか」
「いえいえ、お気になさらず」
 
   了




2022年8月16日

 

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