小説 川崎サイト

 

ファンタジー

川崎ゆきお



「日常の中からふいっと非日常な異界が覗いていることがあるんですよ」
「日常はどこまでも続いているはずだが。そこはどこなんだ。あなたの住んでおる町は」
「隣町です」
「じゃ、近くじゃないか。わしもよく行くよ。新しくできたショッピングモールとかにね。しかし、あの町にはそんなおかしな場所はないはずだが」
「細い路地とかがあるんですよ」
「そりゃ、町ならどこにだってあるだろう。その路地がどうしたんた?」
「日常とはちょっと違う空間が広がっているのです」
「路地って、すごく日常的な場所じゃないのかい。生活道路とか通路だろ」
「その奥に隠されているんですよ。僕たちとちょっと違う世界が」
「それが異界なのかね」
「まあ、そんな感じです」
「別に何もないじゃないか。特別な場所じゃないだろ。異界って言うから、もっと特殊な場所かと思っていたんだが、そうじゃないようだな」
「不思議な世界ですよ」
「普通の市民が住んでおる場所だろ」
「そうですが、路地の奥には違う世界があるような雰囲気がするのですよ」
「じゃあ、事実ではないわけだ」
「僕の中では事実なんです。あるんです」
「それはあなたの勝手だが、検査が必要かもしれんが、わしにはあなたがまともに見える。本気でそんな嘘を言っているとは思えない。どうなんですか?」
「僕の中では素敵な世界が」
「どう素敵なんだね?」
「忘れていたような、記憶の中から去ってしまった物語の断片が垣間見えるような」
「もっと具体的な事実を話しなさい」
「これが僕の中の事実ですよ」
「じゃあ、何を忘れたんだ」
「そう、それなんです。何を忘れたのかを忘れてしまっているのですよ」
「忘れているのにどうして思い出すんだ」
「思い出させてくれそうな雰囲気が、路地の奥にあるのですよね」
「路地の奥ってどこなんだ。なんなら地図を出そうか」
「奥のほう、彼方です」
「妄想だ」
「ではなく、ファンタジーなんですよね」
「盗んだパンツもファンタジーなのか?」
「これは異界のお土産です」
 
   了


2007年11月04日

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