小説 川崎サイト

 

朝の調子


 その日の朝、高橋は寝起きが悪く、やや不機嫌。何か調子の悪さのようなものを感じる。そして気が重い。
 外に出ると、中途半端な天気で、晴れのようでいて曇り。陽射しがあったりなかったりするが、夏の終わり頃にしては梅雨時のような蒸し暑さがある。
 高橋は寝起き、すぐに食べに行く。ファスト店での和定食。それが日課。ただ、雨とかが降ると部屋にあるインスタントもので済ませるが、多少の雨なら強引に出掛ける。日課なので、それを欠かすと調子が悪い。
 この調子が曲者なのだが、昨日と同じことの繰り返しだと、調子が分かる。だから、調子の良さや悪さは、日々の調子から分かる。しかし、何の調子だろうか。
 今朝の寝起きの悪さ。これはすぐに分かる。いつもの調子ではないので調子が分かる。そう言う理屈だ。
 さらにファスト店までの道には信号がいくつかある。それらが青だと調子が良い。これは具体的だ。運がいいのだろう。それで早い目に到着出来るのだが、大した差ではない。
 しかし、二つか三つの信号が運悪く全部赤だと、それなりに遅れる。その確率は均されているようで、赤ばかりとか青ばかりとかは滅多にない。
 だから青ばかりだと非常に調子の良さを感じるのだが、これは信号だけの話で、特にその信号だけでの話。
 店屋で支払いをするとき、あと一円あれば九枚の一円玉を釣り銭で受け取らなくてもいいのに、というのがある。これも、そこだけの話で、全体の話ではない。
 しかし、その朝の高橋は、そういった一寸した調子の悪さが重なった。
 一日が始まったばかり。小さなことならいいのだが、何か悪い予感がする。こういう調子の悪いときは大人しくしていた方がいい。
 しかし、高橋は大人しい。そして日々大人しく暮らしているので、これ以上大人しくとなると、座りっぱなしか、寝ているしかない。
 その日のスケージュールは大したことはない。簡単に出来ることだ。無理をしないと出来ないことではない。
 ファスト店での朝定食を無事食べ終え、支払いもし、外に出た。しかし、やはり調子が悪い。シャケが付いてくるのだが、今朝のは小さいし、痩せており、硬い。それに席だ。いつもの隅っこの席に先客がいる。いつもは滅多にいない。
 その他、いちいち言えばきりがないが、何故か間の悪さを感じた。割り箸が硬くて抜けない。入れすぎなのだ。それで弾みで手が滑り湯飲み茶碗に触れたのだが、こぼしたり、倒れたりはしなかったが、湯飲みが倒れそうになったりすることはこれまでこの店では一度もない。だから、これは調子の悪さから来ているのだろう。
 出てから、タバコを吸おうとしたが、一本しか残っていない。あるだけいいだろう。しかし、火が点きにくいと思い、タバコを見ると、中程に亀裂があり、タバコの葉が見えていた。
 これはやばいのではないか、まだ朝だ。高橋は一日が心配になってきた。
 結果的には調子の悪さはそこまでで、そのあとは普段通りで、調子も元に戻った。
 今朝のドタバタ、あれは何だったかと高橋は不思議がった。
 
   了

 




2022年8月29日

 

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