小説 川崎サイト

 

依頼仕事


「最近はどうですか」
「まずまずだよ。あまり変わり映えはしないが、のんびりと過ごしている方だな。それほど忙しくはない。その代わり仕事が減り、収入は減ったがね」
「お元気そうなので、なにより」
「そうだな、健康維持が一番大事かもしれん。元気でないと辛いからねえ。仕事も捗らんし」
「でもお元気そうで」
「まあ、普通に体が動く程度だよ。スポーツは無理だがね。速く走るのも駄目。息が切れるし、足がだるくなる。どちらが先かは分からんが、足が先かもしれん。息は苦しくないが、足が苦しい。足が出ん。まあ、少し休めば、また足は出るが、それほど長くは続かない。そして、それを何度も繰り返していると、足が出る距離が短くなってくる」
「丁寧なお話し、有り難うございます」
「まあ、そのへんを散歩するには困らないよ。長い距離とか、坂道でなければね。階段程度なら何ともないが、二階までだな。三階は足に来る。四階まで上がるとなると、これは踊り場で休まないといけない。長い時間じゃないよ。一息でいい。しかし、下手に休むよりも、一気に駆け上った方がよかったりする。エンジンは掛かっているしね。それを一度鎮めるのはもったいない」
「はい、有り難うございます」
「礼を言われるほどのことじゃないよ。最近の体力について説明しただけなのでな」
「それでお仕事なのですが」
「仕事」
「入れて貰えませんか。うちの仕事を」
「何だ、仕事の依頼か。まあ、暇なので、当然、受けるよ。何でもいいから」
「一寸遠いところまで行ってもらいたいのです」
「黄泉の国にでも行くわけじゃないだろ」
「一寸辺鄙なところで」
「一日で行けるかね」
「はい、国内ですから」
「飛行機かね」
「いや、最寄りの空港は遠いので」
「高速道路は」
「それも遠いです」
「じゃ鉄道は」
「ありますが、それも目的地の近くには駅がありません。路線から外れています」
「じゃ、そこへはどうして行くんだ。徒歩じゃあるまいな。先ほど説明しただろ。近所をぶらっと歩く散歩程度ならいいが、山を越えたりするんじゃないだろうなあ」
「車で行きます」
「それを先に言いなさい。心配したじゃないか」
「山道ですが、車は入れます。急坂や未舗装箇所もありますので、四駆で行きます。運転は私がします」
「で、どんな仕事なのだ」
「いつも先生がやっておられる仕事と同じです」
「そうか。それならいいが、難しいんじゃないのか」
「いや、誰もやりたがりません。遠いし」
「それが本音だね」
「え」
「私なら暇なので、引き受けるだろうと」
「それは当たっています」
「じゃ、期待に添うようにするよ」
「有り難うございます」
「うむ」
 
   了

 


 
 


2022年9月6日

 

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