小説 川崎サイト

 

緩やかなカーブ


 安定した路線と、この先、何が起こるのかが分かりにくい路線とがある。路線とは線路ではない。鉄道の。
 日々の暮らしの中でのパターンなどで当てはめたり、路線変更とかの方針変えもある。いずれもレールが敷かれているわけではないが、目に見えない線路があるのだろう。
 既に道が出来ているようなもので、その道は未知ではないが、予想される道。ほぼそうなるだろうと分かっている。だから分かりきった道で、既成の道。
 植岡が考えたのは、そういったいつもの日常パターン的な道ではなく、未知なる道。先がどうなっているのかの予測は付くが、そこまで近付かないと分からない。
 これまでの道だと大凡予想が付く。しかし、未知なる道では予想も怪しい。そして、それがいいものかどうか、望んでいたものかも分かりにくい。だから、違うかもしれない。踏んでみるまでは謎。
 植岡は未知なる道へ踏み込もうとしたのは、この謎に引っ張れてだ。
 目的地よりも、この先はどうなっているのか、謎めいているので、行ってみたくなった。ただの好奇心で、本来の目的ではないかもしれないと思いながら。
 これは決まり切った道に飽きてきたわけではないが、一寸先は闇のような展開にスリルを感じるため。感覚もここでは研ぎ澄まされる。緊張や、緊迫感もある。これはいつもの路線では出てこないことだ。
 しかし、普段の路線も、ガクンとある日、途切れることもあるのだが、それまでは退屈な日々だろう。
 未知なる道。それは不安定。それに目的が達成出来るとは限らない。ただの寄り道かもしれない。また全部が全部、無駄に終わるかもしれない。
 だから、これは賭。冒険者だ。リスクはあるが、宝物を得られるチャンスも得られる。あくまでもチャンスで、宝物が手に入らなかったとしても、そこに希望がある。
 しかし植岡はそれを考えている途中で、邪魔臭くなってきた。別に宝物も希望も、いらないのではないかと。
 結局は欲得の世界。その話なのだ。これは植岡が考え直せば、つまらないことでも、些細なことでも希望になるし、宝も得られるのではないか。金塊は手に入らないが、砂金の一粒ぐらいは得られる。
 そして、いつもの路線でも、それなりに変化があり、決して安定しているわけではない。一寸油断すると脱線する。
 それで植岡は考え直した。こういうことを考えながら、路線を変えるとろくなことはないことを経験上知っていた。いつもの路線でもよく見ると、真っ直ぐではなく、結構曲がっている。路線変更しなくても、そうなっているのだ。
 この緩やかなカーブ。変わっていないようでいて変わっている。だから変わったことに気付かなかったりするのかもしれない。
 
   了


 


2022年9月7日

 

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