小説 川崎サイト

 

悪流

川崎ゆきお



「悪い流れに入っておられるようですね」
 占い婆さんが言う。
「だから、こうして占い師を訪ねた」
「順風航路時には来られませんなあ」
「困っておらんからだ」
「ご尤も。ご尤も」
「で、悪い流れとは?」
「今、なされていることでしょうな」
「流れを変えるべきか?」
「悪い流れは、どこまでもその流れじゃ」
「悪流?」
「悪い流れのまま流される。人は流れに身を任すが楽。それが本流。その本流が悪いと、どこまでも悪い」
「悪い本流を断ち切るにはどうすればよい」
「断ち切ればよい」
「まあ、そうなんだが」
「ここに来られたのは断ち切りたいからであろう」
「その、あろうだ」
「そうであろう。背中を押してもらいたいのであろう」
「その通り」
「本流を断ち切り、支流を作ることじゃ。やがてその細き支流が本流となろう」
「別の流れへ移れと言うことだな」
「その見当はおありかな?」
「できておる」
「では、私は何を占えばよい?」
「その支流が正解かどうかだ」
「正解とは?」
「妥当な道かどうかだ」
「支流は一つですかな?」
「一つだ」
「もう、流れは決まっておる。占う必要はなかろうて」
「悪い流れにも未練がある」
「ますます悪くなりましょうぞ」
「そうかな」
「はて?」
「どこかで水質が変わる可能性もある」
「それには時間がかかりましょう」
「そうだな。早く変えたい」
「では、迷うことはありゃしませぬがな」
「ところで、婆さんは何占いだ?」
「私の占いは裏ないじゃ。裏がない占いじゃよよ」
「だから、どういう占いだ?」
「占わぬ占いじゃよ」
「婆さんこそ悪い流れに入ってる」
「はて」
「それでは見料がとれんではないか」
「それでよい。暇つぶしじゃから」
「そんな生き方をわしもしてみたい」
 紳士は礼金を置いて立ち去った。
 
   了


2007年11月06日

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