小説 川崎サイト

 

彼岸花


「急に涼しくなりましたねえ」
「彼岸花が咲き出していますよ。夏には咲かない。だから秋です」
「あの花、とんでもないところに、突然咲くので、驚きますよ」
「いや、ほぼ決まったところで咲いていますよ。去年と同じところにね」
「その間、一年ほど隠れているのでしょうかねえ」
「さあ、咲いているところしか見ていませんから、その後、枯れたあと、どうなるのかは知りません。その頃は多く咲き誇っていますから、もう驚きはありません。もう分かったものとして、見ているだけ。あとは色でしょうねえ。赤と黄色と白はよく見かけます。赤も真っ赤がいいですねえ。赤じゃなく薄いめで桃色のもあります。赤と白の間でしょうか」
「よく観察されておられる」
「信号待ちの時、歩道の植え込みに三色分あるのでね」
「黒はないのでしょうねえ」
「黒い彼岸花。これは縁起が悪そうです。咲いておれば不気味でしょ。歩道に沿って黒い彼岸花が並んでいると、葬式です」
「間に白いのが咲いておれば、そのままですねえ」
「赤いのが混ざると、セール中のようなものです。祝い事とかね」
「でもあまり長くは咲いていませんねえ」
「だから良いのです。この前まで咲き誇っていたのに、今日はもうないとかね。まあ、ない場合は見ませんよね。ないものは目に入らないから、そこに彼岸花が咲いていたことも忘れています。しかし、枯れてもしばらくはそこにありますよ。まあ、枯れた彼岸花をめでる人もいないと思います。死人花ともいいますからね。まあ、お彼岸で墓参りに行った時、墓地に咲いていたりしますが、それと関係があるのかどうかは分かりません」
「黒も不気味ですが、真っ赤な彼岸花というのも、何か気味が悪いかもしれません」
「まあ、人がそう思っているだけで、花はそんなことなど意識していないでしょう」
「そうですねえ」
 
   了


 


2022年9月25日

 

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