小説 川崎サイト

 

散歩に行けない日


 さて、どうするか。と佐竹は考えた。その時間、そのことで考える必要はない。朝食後の行動は決まっており、自動的に外に出る。出ようと思って出るわけではなく、そうなっているので、これは習慣だ。
 スケジュールは既に決まっている。そのため、さて、どうするか、などと考える必要はないのだが、雨で足を奪われた。足はあるし、歩けるが、天気が悪い。多少の雨なら問題はないが、風が強い。
 これではのんびりと散歩などやっている場合ではないだろう。ステージというか場が悪い。その場所、そのコースが悪いのではなく、状態がいけない。
 目的は散歩なのだ。食後、一寸そのへんを歩くだけ。沿道の景色を見たりするのが習慣で、見慣れたものでも変化がある。そういう呑気なことなので、雨風を突いて行くような用事ではない。
 そういうことが佐竹にはたまにある。台風の日はそうだろう。しかし年に何回もない。
 その日は台風ではなく、雨風が強いだけ。これはやめば行けるのだが、やみそうにない。天気予報を見ると、半日近くはそんな状態のようだ。
 それで浮いた。スケジュールが宙に。こういうときはどうやって過ごしているのかと思い出すと、部屋にいるだけの話。外に出られないのだから。
 これが大変な用事なら、出るだろう。散歩にはふさわしくないが、通勤通学でなら、この程度の風雨では問題はない。
 それで何をして過ごしていたのかを思い出すと、部屋で寝ていたことが多い。また、家の用事などを適当にやっていると、散歩から戻ってくる時間になっていた。
 流石に外での散歩が出来ないので、家の中を歩き回るということはない。歩くのは健康のためではなく、佐竹はそういう感じでの運動はしない。嫌でも歩かないといけない用事があるだろう。
 それで朝、起きたばかりでの食後なので、また寝るのも何だが、眠れなくても横になっているだけでもいい。
 それで蒲団を敷き直している時、枕元に邪魔なものがある。袋を置きっぱなしにしていたのだろう。レジ袋のようなものだ。中は空っぽ。それを持ち上げると畳の色が変わっている。それで用事が出来た。畳の汚れを取るため、色々な道具類を動員したのだが、最初の雑巾程度では取れない。
 ブラシとか、タワシとか、鍋洗いのギザギザしたものなどを交代で使ったが、取れない。畳の目が逆むけてしまうので、あまりきついことは出来ない。だから金属タワシは使わなかったが、爪が結構役立った。
 結局は汚れは少し落ちた程度で、最初見た時の色よりも薄くなっていた。
 そうこうしているうちに、散歩から戻ってきている時間になったので、その後はいつものスケジュールに乗った。
 いつもいないはずのその時間の部屋。そこにいる。それが少しだけ佐竹には新鮮だった。
 
   了
 

 


2022年9月30日

 

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