小説 川崎サイト

 

使用人と犬

 
 城内での評定で、坂梨善兵衛は沙汰あるまで謹慎となる。罪状は汚職。しかも大金で期間も長い。
 城内でそのお達しを聞いた坂梨は是非もなしと覚悟を決めていたようだ。
 下城するおり、上役の重臣が遠くから坂梨を見ている。見送りだろう。
 要するに上役の罪を被ったことになるのだが、それは承知していた。そして、坂梨家に使者が来て、その沙汰を伝えられるはず。切腹だろう。
 坂梨は家人や使用人などを集めて、その夜、宴とした。祝い事ではないが、最後の宴。
 坂梨が商人達の窓口になっており、そこで不正を働いた。
 翌朝、すぐに城から使いが来て、切腹を伝えた。明日までに、となっている。その日は立会人などの役人も来る。
 そしてその日、見届け人が来た時、屋敷はもぬけの殻。猫の子一匹だけが庭を横切り、座敷では鼠は走り回っていた。
 坂梨の上役は重臣で、実力者。坂梨が蓄電したのを聞いて、ほっとした。今で言うトカゲの尻尾。そのため長い間、飼っていたようなもの。坂梨家は家と言えるほどのものはもうなく、浪人中に拾われた。他にも、この尻尾は何人かいるようだ。
 坂梨一家が何処へ逃げたのかは分からないが、その世話をする役目の者がおり、そこへ向かったはず。
 ただ、屋敷の使用人の一人と犬が付いてきていた。坂梨にもそれなりの人望があったのだろう。
 
   了

 




2022年10月2日

 

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