小説 川崎サイト

 

好奇心

 
「好奇心って何でしょう」
「あまりいい漢字の組み合わせではないねえ」
「好きと嫌いの好ですからね。奇妙とか、奇怪とかの奇ですし」
「それを好奇心となると、少しはましになる。それにいいことだとされているね。その心は」
「好奇の心ですね。しかし、珍しいものに感心がいくのは悪くないですよ」
「だから悪いとは言っていない」
「どんなことにでも好奇心旺盛で、というのも知的でいいじゃないですか」
「知的なことだけとは限らないだろ。ただの好奇心での覗き見。わが好奇心を満たすだけの行為。そういうのもある。だから半々だね」
「世の中のことに色々と興味を抱き、好奇心旺盛な人。と言うのも悪くはないでしょ」
「しかし、一つのことだけをコツコツとやり続ける人の方が信頼性は高いよ。それに一つのことだけでもかなり奥が深い。知れば知るほど奥がある。好奇心旺盛で色々な博識があっても、それは信用ならん。浅く広くは出来るが、広く深くは無理だろ」
「私はそれほど好奇心が旺盛ではありません。どうすればいいのでしょうか」
「いや、同じことだよ。広く集めた知恵も、一つのところからくみ取った知恵も。まあ、同等だろうねえ」
「それを聞いて安心しました。しかし、珍しいものにも興味があります。多少は好奇心が起こることもあります。同じ穴を掘り続けるよりも、別の穴も掘ってみたいと」
「いいじゃないか。その気があるのなら、色々なことに興味を抱くのは悪くはないんだ」
「よくもないんでしょ」
「そうだね。散るからね。この人、結局、何をしている人、となると、浅はかな人のように思われがちだ。実際、そうだがね。一つのことだけでも、一生かかっても出来なかったりする」
「好奇心が盛んな人は飽き性だと聞きましたが」
「隣の芝生が気になるんだろうねえ」
「好奇心の強い人は、あちらこちらで食い散らかしているとも」
「まあ、そんな人もいるという程度だよ。一つのことでも奥が深い。その深さは好奇心による発見かもしれん。好奇心も使い用だよ」
「分かったような分からない話です」
「でも、どうして好奇心について考えてみようと思ったのかね」
「はい、ちょとした好奇心で」
「あ、そ」
 
   了


2022年10月7日

 

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