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尻割り
期待していたものが、その通りだと、通りがいい。またそこへ行く通り道もあり、それらはそれほど難しいことではなく、期待するほどのことではないが、通り道なので、その先に期待しているものがある。
だから、その通りを進むことは、期待しているものに近付くこと。段階を踏んで、という大袈裟なものではないが、この道を通れば、そちらへ出る程度。だからその道は平凡なもの。
ただ、向かっているときの道筋なので、それが含まれる。その道沿いに期待しているものが含まれているのではなく、方角がそうなのだ。嫌でも、そこへ行ってしまえる。
だが、途中で方角、道を変えてもいい。ただ、そうすると、期待しているところへは行けない。これは断念すると言うことだが、何か気のりがしないとか、今はその時ではないと思うためだろう。
そう思ってしまったのなら、仕方がない。ただ、断念したいという気持ちの方が大きいのだろう。
いっそのこと、最初から期待しているものへと一直線に進めばいい。ダイレクトに。
しかし、それが出来ない事情がある。時が合わないとか、今、直ぐさまそこへ行くのは早過ぎるとかの問題があり、どうしてもその時まで間がある場合、それまで別のことをすることになる。
だが、やってやれないことはない。ただ早すぎるので、そのあとが問題になる。やろうと思えば出来るのだが、それは今ではないのだ。
「何をブツクサ言っているのかね、竹田君」
「期待しているものに近付くのが怖いのです。もし違っていたら、どうしようかとか、僕に問題があって、それで失敗するとか」
「予定していたことを恐れるのかね」
「怖いものではありませんし、非常に望ましいものなのですが、もし違っていたらとか、うまく出来なかったとか、そういう問題を考えてしまいます」
「いいことなんだね」
「そうです。すごく期待出来ることです」
「じゃ、そんな余計なことを考えないで、すんなりとやればいいじゃないですか」
「しかし、それまでの間、一寸時間的に余裕がありまして。その間、何か居心地が悪くて」
「わくわく感ではなく、かね」
「わくわくしすぎて、逆になるんです」
「ほほう」
「それで、今日はもうやめようかとさえ思うほどです」
「何か支障でもあるのかね。期待を妨げるような事情とか」
「ありません」
「じゃ、いいじゃないか、問題になるようなことではないでしょ」
「そうですね。プレッシャーに弱いのです。きっと」
「それで研究論文になかなか入れないのかね」
「いや、すぐにでも出来るのですが、もう少し順番を踏み、地ならしが必要かと」
「出来るのに、出来ないと」
「はい」
「失敗を恐れるからかね」
「はい、今度しくじると、またかと思われるので、慎重になりまして」
「気にしなくていいよ、竹田君。君はすぐに尻を割る悪癖がある」
「今度は割らないように用心しています」
「いや、竹田君が尻を割っても、またかと思うだけで、誰も何とも思わないよ。だから安心したまえ」
「割ってもいいのなら、やります。すぐにでも」
「はいはい」
了
2022年10月11日